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『グーグル、アップルに負けない著作権法』◆クラウドプロバイダーについて

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 角川歴彦『グーグル、アップルに負けない著作権法』KADOKAWA、角川EPUB選書、20131010日、1400円+税 [注△文△索×]
 
本書は、グーグル、アップルなどと電子書籍に関して交渉したことから、そういったクラウドプロバイダーの戦略とそれへの対策とを書いた本である。
 
冒頭をこのように始めている。
2012年、株式会社KADOKAWAは、脅威の象徴として“黒船”といわれた海外4クラウドプロバイダー各社と直接対峙した。…夏のカナダのKobo(実際の経営は楽天)に始まり、9月にはアメリカのグーグル、10月のアマゾン、そして12月にアップルという順に――。彼らは世界の電子書籍市場を独占する主要なプレイヤー(モノポリー者)だ。>(p.3
さらにこう続く。
<◎出版社の直営サイトとして、著者と出版者…との日本独特の濃密関係を外国企業に理解させることが出来るか
◎日本語は世界でも稀な縦書き表記である。KADOKAWAグループ傘下9社の推進するEPUB3…を4社がサービス開始時に採用出来るか
4社が求める複数年度契約を単年度に出来るか、…
◎もしも両者間でトラブルがあったときは管轄裁判所を日本に出来るか
およそ14項目におよぶ交渉はどれ一つとっても疎かに出来ず、手を抜くと後々後悔しそうな案件であった。>(pp.3-4
このような書き出しであれば、読者は当然、そのあとの本文中でこれらの案件がどのように解決されたかが書かれていると期待するであろう。しかし、見事にその期待は裏切られ、思わせぶりの前振りは遂に明かされることはない。4社と契約交渉した話はpp.155-161で簡単に触れてはいるが、上記の案件が具体的にどうなったのかの説明はない。<もちろん契約内容に立ち入ることは秘密保持義務に違反するから詳細は語れない。>(p.177)つまり、本書がミステリなら、冒頭に起きた謎が解明されないまま、探偵曰く、クライアントの秘密保持義務に違反するから詳細は語れないとして、終わってしまうわけだ。
 
したがって、本書に対してタイトルに書いてあるような「負けない著作権法」を知ることができるなどと期待してはいけない。そのような言葉など、無知な読者に対する掴みでしかない。羊頭狗肉という言葉が本書の本質を示す。
本書の読みどころは別にあろう。グーグル、アマゾン、アップルといった企業が、<IT業界のビジネスモデルは有料課金か、広告による無料サービスの二つしかない>と思われていたところに、<利益をあげる第3の方法があることを[アップルの]ジョブズが示した。「アップルのエコシステム」を目の当たりに見せられて、グーグルもアマゾンも、さらには場外にいたマイクロソフトでさえ驚愕した。その誰もが考えもしなかった収益構造をジョブズは実現してみせた。>(p.164)という、クラウドプロバイダーの動向を描いた本でしかない。
 
著者は、こういった動きに対抗して、<私は「エコシステム20」を提案する。/エコシステム20はコンテンツ事業者が自らクラウドプロバイダーとなり、アプリ開発者とプラットフォームを作る。/音楽/出版/映画/ゲーム/アニメ/テレビといった日本のコンテンツ事業者が全員参加してプラットフォーマーになる。>pp.185-6)と主張する。そして、次のように断言する。<ジャパン・コンテンツ・プラットフォームの本当の凄みは、顧客IDが国民レベルの「認証システム」に成長すると大きな価値を生むことにある。…3年もすれば国民の大半がユーザーになる。>p.187
ここで遂に著者の本当の狙いが露わになったというべきか。ジャパン・コンテンツ・プラットフォームができた暁には、その顧客IDを国民IDにしようと狙っているわけだ。「国民の大半がユーザー」なら、誰がどのような音楽/出版/映画/ゲーム/アニメ/テレビを見たかは一目瞭然。さらに敷衍して言えば、著者はこのプラットフォームではアップルとは違ってリジェクションはしないと主張しているものの、そんな保証はどこにもない。グーグル八分のようなことは管理側からすれば裏でいくらでもできてしまう。まさにオーウェルの悪夢の到来! 
まあ、恐らくはジャパン・コンテンツ・プラットフォームなどという悪夢は、賢明な日本のコンテンツ事業者の多くが参加しないであろうから、成立しないで済むとは思うが。
 
本書は、株式会社KADOKAWAの会長の書いたものだが、おそらく部下の誰かが編集者としてついたのだろう。しかし、書籍の編集には素人らしく、おかしな箇所が随所にある。
〔例1〕<彼[ウンベルト・エーコ]にとって書籍は調査の道具だ。だから本棚にあることは大きな価値がある。アナログ的と悪口をいわれようが背表紙と腰帯にはネットには代えがたい検索性がある。>(p.40
→日本じゃないのだから、まず「腰帯」なんてついていない(そもそも腰帯なんて言い方は俗称で、帯で十分)。
〔例2p. 77は<イノベーションの連続がこの新世界の宿命でもあるのだ。>の1行のみで、残りは白。ここで第1章が終わるため、次ページのp.78も白。
→まともな編集者なら、はみ出した1行をなんとか前のページ内に収めるものだが。
〔例3〕<出版でいえば、編集者のエディトリアルとはどんな作業か。>(p.148)と書かれたすぐ後に、次のようなエピソードが紹介される。ある女性編集者と有名な芥川賞受賞作家との原稿のやりとりで、<校正したての初稿に誤植があると作家が怒り出した。「もう君の社から出版することは認めない」と印刷物を取り上げたのだ。彼女もまた感情が昂じて、なんと真夜中の飯田橋駅の橋の上でそれを奪いかえしたというのである。>(p.148
→これでは編集者のエディトリアルとは、作家が怒っても原稿を奪いかえすものだとしか読めない。第一、「校正したての初稿に誤植がある」とは意味不明。「初校ゲラにまだ誤植が残っていた」とも考えられるが、株式会社KADOKAWAでは「校正したて」でホッカホカの「初稿」(「稿」の字は原稿の意味だから、ゲラではなく、第1稿とも読めるが)とかいうものがあるのだろうか。
〔例4〕巻末に用語集が横組みで4ページつく。これが変なページ順だ。p.307p.306p.309p.308という順に読まねばならない。
→まともに組めば、p.309p.308p.307p.306という素直な順にするだけ。縦組みの本に、横組みページがきたらどうすればいいのか考えなかったんだろうね。
 
余計なことだが、電子書籍の流れを記述した中で、著者は<こうした大きな資産であり、かけがえのない出版物[百科事典や国語辞書]が、技術革新の荒波をまともに受けるという厳しい現実を、出版社や国語学者はどう受け止めたらいいのだろうか。>pp.44-5)と記す。多くの辞典を出している角川学芸出版という立派な出版社もいまは株式会社KADOKAWAのブランドカンパニーになっているのだが、株式会社KADOKAWAの会長職を務める著者にとっては他人事でしかないのだろう。
 
本書は、13.5級、140字詰め、行送り22歯、19/pだろうと思うが、小口までのアキが10mmと版面が紙面いっぱいであり、文字が大きいくせに行間が狭く、非常に読みにくい。電子書籍なんぞに浮かれていないで、紙の本のレイアウトくらい読みやすくしなければ、やっぱり「編集なんか不要だ」論に負けてしまうぞ。

内容も体裁も、
3年もかけて作った本にしては、お粗末としか言いようがない。
 
 
 

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隠居生活続行中。

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