FC2ブログ

『本の顔』◆装丁について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 坂川栄治+坂川事務所『本の顔:本をつくるときに装丁家が考えること』芸術新聞社、2013107日、1800円+税 [注×文×索×]
 
本書は、<「人と人とのコミュニケーションが装丁をつくる」それを30年間、第一線で実践してきた坂川栄治と坂川事務所による、装丁の教科書>(カバー袖より)。数千冊もの本の装丁を手掛けた中から約180冊を例示して、それぞれの本の装丁ができるまでを解説しているので、「装丁の教科書」と言うのは間違いではないものの、「30年間」はちょっとオーバーか(帯にも「30年間」とある)。本書にもあるように、国書刊行会から出たジョン・アーヴィング『ウォーターメソッドマン』が最初の装丁の仕事(p.49)であるなら、同書の初版は1989年なので、24年もしくは25年間が正確でしょう。
 
ちなみに、同書の編集者は、装丁料として通常料金の3分の1くらいしか提示できなかったため、困った編集者はやおら財布を取り出して1万円札を出し、どうしてもお願いしたいので自腹を切るからと。5冊ほど作った後、他の出版社へ移り、激務のあげく倒れて退社してしまったというp.49
 
本書の構成を記しておこう。
 はじめに
 本ができるまで
 1 装丁の依頼
 2 文字で装う
 3 イラストで装う
 4 色で装う
 5 写真で装う
 6 絵本を装う
 7 紙と印刷
 巻末対談 ①坂川栄治の「装丁」術・・・山口晶(早川書房)と
          ②坂川栄治の「コミュニケーション」術・・・長岡香織(講談社)と
全体で144ページなので、一つ一つの項目が充実しているわけではないが、装丁作品集として見ると、見たことのある本、初めて見る本それぞれに、簡単な種明かしがあったりして面白い。
 
最後の対談に「コミュニケーション」術とある通り、著者はコミュニケーションの取り方を重視する。だから、依頼された本のゲラは読まない主義だ。編集者からは、<装丁のヒントとエッセンスだけを頂き、デザインは常に客観性を保ちたい。本を商品として考えられるだけの距離感を維持するために、あえて読まないんです>(p.8
<その代わりにたくさんの会話をして、気になる点を自分のノートに書き留めながら、イメージを固めていきます。>(p.22
ノートの実例も掲載されている。編集者がどこまで自分が編集している本を熟知しているかが試されるわけだ。最近は、編集者が明らかにろくに原稿やゲラを読んでいないな、という本に出合うことが増えたような気がするので、これは編集者にとっていい訓練かもしれない。
 
25は、装丁の実例を、採用案と不採用案とを並べて、編集者とデザイナーの試行錯誤の跡を辿る試み。これは以前にどこかのデザイン雑誌でもやっていた気がする(装丁ではなくポスターか何かで)。
そこに並んだ装丁を眺めると、坂川栄治らしさといったものは感じられない。むしろ、常に変わっている。この点について、<上の世代[菊地信義や平野甲賀ら]を専門店に例えると、自分たちは時代ごとにやり方を変化させる百貨店型にシフトしていった>(p.137)。だから、<先鋭的なデザインを避けて、角を丸くゆるめたり、デザインとして80くらいのものを目指して、多くの人に届きやすくしている>(p.141)という。したがって、流行にも敏感だ。もちろん、流行は<波乗りみたいなもので、その波に乗るのも乗らないのも自由>(p.136)と考えている。万人向きデザインであるがゆえ、各出版社は依頼したくなり、数千冊もの実績が生まれたのだろう。そういった安定した職人技(プロフェッショナリズム)はとても大事だと思う。
 
最近の面白い傾向として、ネット書店を意識して装丁を作ることがあげられている。ネット書店では表示される表紙の画像サイズが小さいので、文字が見えるようにしたり、帯をはずした書影が多いので、その見え方を意識して作るそうだ(p.136)。
 
巻末対談①で、<打合せでなるべく作家に会いたくないのも、やっぱり主観から入ってしまうかな。>(p.135)と語る。その伝で言えば、本書の装丁を行う際に、この場合の「作家」に該当する著者自身とは別な人間に装丁してもらうべきだった。実際、本書の装丁は、本書に掲載されている数々の本の中でも一番の駄作に終わってしまったと思う。どうも、デザイナー諸氏が自ら書いた本を装丁しようとすると、考えあぐねた末に最悪の選択をしてしまうためか、恐ろしく陳腐な装丁にしてしまう。本書もまたその呪縛を逃れることはできなかったのは残念だった。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
ジョン・アーヴィング/川本三郎・柴田元幸・岸本佐知子訳『ウォーターメソッドマン』上・下、国書刊行会、文学の冒険シリーズ、19892月、各1699円+
*ちなみに、『本の顔』p.49には、2か所に「ウォーター・メソッドマン」としているが、正しくは中黒なし。表紙の画像も同じページに掲載されているのだから、校正時に画像と照合するのは当たり前なのだが。
 

スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

夢幻庵主人

Author:夢幻庵主人
隠居生活続行中。

最新記事
カレンダー
02 | 2020/03 | 04
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR