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『二流小説家』◆ミステリについて

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴訳『二流小説家』早川書房、ハヤカワ・ミステリ文庫HM2013125日、1000円+税
 David Gordon, The Serialist, 2010
 
本書の元版は、20113月にHAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS1冊として刊行された。本書の「訳者あとがき」によれば、2011年の『ミステリが読みたい!』『このミステリーがすごい!』「週刊文春ミステリーベスト10」の各海外部門ですべて1位を占めたそうだ(p.559)。しかし、久しぶりにミステリとして本書を読み、非常に違和感を覚えてしまった。
 
★注意★ 以下の記述でネタバレをしている箇所があります。
未読の方は、お気をつけてください。
 
あらすじは省略。一読して、違和感を覚えた箇所を記す。
 
1)主人公は、ポルノから始まって、SF、ミステリ(ハードボイルド)、ヴァンパイア小説などを書いている小説家。本書の中に、主人公が執筆した作品の抜粋がところどころ出てくる。こうした作中作の提示手法は、ありふれたやり口であり、別に目新しいものでもない。何通りも筆名を変えながら、ジャンル小説をかき分けているのでそれを例示した、という設定くらいだ。ところが、これらが本書の中でほとんど活きていない。つまり全部読み飛ばしても、枠物語には全く影響がない。つまり全体を構築する中で、枠物語と作品抜粋との有機的な結合がなされていないので、何ら効果的でなく無駄なページとなっている。
作中作とするなら、都筑道夫の『三重露出』のような仕掛けを期待したい。
 
2)モデルを口実に4人の女性を殺したとされる死刑囚のダリアン・クレイから、告白本を書くよう依頼された、というのが本書の大きな筋となる。設定では1996年から1997年にかけて起きた事件だ。作中のメインの時間は20094月から7月となっている。事件から概ね12年後の話となる。
ダリアンの弁護士キャロル・フロスキーは、ダリアンの実の母親だった。しかし、まずこの1点でおかしい。ダリアンは幼くして里親に出されたとされるが、実はその後も実の母親(キャロル・フロスキー)と何度も会い、大きくなってからは一緒に暮し行動もともにしていたとされる。当然容疑者の周辺は徹底的に調査されるべきではないのか。なぜ実の母親の存在が不明だったのか。
名前の不一致があるのだが、死刑囚なのだから「ダリアン・クレイ」が実名だとすると、「キャロル・フロスキー」は偽名なのか、それともダリアンを生んでから離婚でもして名前が変わったのか。いずれにせよFBIも調査するはずの初歩的なことではないか。
また<ダリアンが警察に逮捕されると、息子を救うため、法学部に入学して学位をとった。…はじめのうちダリアンには官選弁護人がついていたが、五年後からフロスキーが弁護を引き継いでいる。>(p.441)どこの大学の法学部に入学したのかは不明だが、ニューヨーク州の弁護士資格はそんなに簡単にとれるものなのだろうか(ニューヨーク州は比較的短期間で資格をとれるらしいが)。法学部に入学するまでのフロスキーの仕事はもっぱら売春婦だったにもかかわらず、逮捕されて5年後には弁護士となっているわけだから、あまりにも超スピードではないのか。
ダリアンは逮捕された後、一貫して容疑を否認しており、決定的な証拠が欠けているため、死刑判決が確定してからも何度も再審請求を繰り返している。これはフロスキーによる死刑引き伸ばしの作戦だという。そしてダリアンが告白本を書くよう依頼した後、ダリアンにファンレターを出した女性3人は、かつての事件とよく似た残虐な手口で殺されたのだが、これらはフロスキーが実はダリアンは無罪で本当の犯人は別にいると思わせるために殺したとする。再審請求が却下され、他に手の打ちようがなくなったから、起死回生を狙ったとも考えられるのだが、それならとっくに事件を起こしてもよかったのではないのか。
 
3)逮捕後、切断された被害者の頭部が発見されなかったとされる。しかし、犯罪現場のすぐ裏の森で結局発見されるわけだが、こんなところをどうして捜査しなかったのだろうか。直観で主人公が気がつくと、たちまち重機で穴を掘って見つけられる程度なのだから、当然調べるべきだったはず。発見された頭部の数が別な事件の伏線を解決するわけだが、それを仕込むためにすぎず、あまりにも安易。
 
4)終結間際のダリアンの長広舌(pp.487-507)。ひたすら冗長。フロスキーの告白との微妙な食い違いを醸成しようとするのでしかない。せいぜい埋められた頭部の中心にモルモットの骨があったのが、ダリアンの最初の殺しの実例を示すということか。
さらにおかしいのは、この告白は録音もメモをとることも禁止という条件をダリアンがハリーにつけたという設定。実際には記憶で書き起こした形になっている以上、意味がない。<すべてフィクションとして世に出さなければならない>(p.486)という条件設定は、本書全体が壮大なフィクションなんですよとしたいがためか。終末近くに<今回の経験から可能なかぎりかすめとり、フィクションとして形を変え、名前や細部も変えて、一篇の小説を生みだそう>(p.555)と主人公に考えさせているのだが、その伏線としてもお粗末な設定ではないのか。
 
5)登場人物はどれも類型的なのだが、唯一面白かったのは、主人公ハリーが家庭教師をつとめた女子高生クレア・ナッシュ。ハリーのビジネス・パートナーとしてテキパキと仕切ってきた。いい感じのキャラクターだったのだが、フロスキーに襲われた途端、あっけなく退場。最後に別れの手紙1枚はないだろう、と思うのだが、クレアに入れ込みすぎか。
 
他にも読んでいる最中には「変だなあ」と思う箇所はいくつかあったが、読み終わった途端、忘却。
結論は「二流ミステリ」。
次には著者の第2作『ミステリガール』を読んでみよう。
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
ミステリマガジン編集部編『ミステリが読みたい! 2012年版』早川書房、201111月、667
『このミステリーがすごい!』編集部編『このミステリーがすごい!2011年のミステリー&エンターテインメントベスト20』宝島社、201112月、476
「週刊文春ミステリーベスト10」《週刊文春》2011128号掲載
都筑道夫『三重露出』東都書房、1964年→光文社文庫、都筑道夫コレクション パロディ篇、20039月、781円+税(ただし、二つの筋を示すのに、元版同様の2段組み・1段組みの使い分けが文庫でもできているのかどうか不明)
デイヴィッド・ゴードン/青木千鶴訳『ミステリガール』早川書房、HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS20136月、1900円+税
 

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