FC2ブログ

『中国の黒社会』◆チャイニーズ・マフィアについて

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 石田収『中国の黒社会』講談社、講談社現代新書、2002420日、660円+税 [注△文×索×]
 
本書は、中国人による犯罪組織である「黒社会」(チャイニーズ・マフィア)について、その秘密結社としての淵源から現代の世界中で暗躍している姿までを描いた書である。
<世界を席巻するチャイニーズ・マフィアの総数はいったいどれぐらいなのであろう。その数は少なく見積もっても150万~200万人はいると思われる。>(p.14
 
中国の秘密結社がそもそもどのような理由で生まれたのか。<中国社会における秘密結社とは何か。一口で言えば、それは権力から収奪され続けた庶民が、みずからを守るために作った組織である。>(p.28)<みずからの安全を守るのはいわゆる「お上」ではなく、まずは血縁関係である一族、ついでは地縁であった。そして、それらを越えるものが必要となった時、人々は秘密結社にその存在価値を見出したのである。>(p.29
その結果、<「お上」への抵抗という結社の目的は、自然の流れとして組織に政治性を付与することになる。そのため、秘密結社は往々にして反乱や暴動の発火点となった。>(p.29
 
その背景には、<中国社会独自の必然性があった。すなわち、中国においては権力が民衆を保護することはほとんどないという特殊な事情である。中国における権力とはむきだしの力であり、権力者や権力に仕える役人になることは、直接的に富を意味した。>(p.49
単純化しては歴史を読み誤るおそれはあるが、基本的な理解としては納得できる。科挙に合格して役人ともなれば、一族郎党がそのおこぼれに預かろうとする話は枚挙にいとまがない。それは現代の中国でも同じか。
 
中国史の底流を流れてきた秘密結社は、清朝末期に犯罪組織としての面を色濃くしていった。
<権力の圧政・横暴から身を守る目的で結成された秘密結社が、近現代において多くが犯罪組織へとその姿を変えている。それはなぜであろうか。/ここにもやはり、中国社会独特の構造が影響している。すなわち、中国社会においては伝統的に何が悪で、何が悪でないのかが明確ではないということである。/…そうであればこそ、秘密結社のメンバーが犯罪に走るのにそれほどの抵抗はなかったと推測される。>(pp.49-50
この論理は理解しがたい。「伝統的に何が悪で、何が悪でないのかが明確ではない」という「中国社会独特の構造」があるにせよ、その指摘だけでは秘密結社が犯罪組織に変貌する理由とするにはあまりに弱い。それなら、もっと古い時代から犯罪組織になっていたはずだ。
むしろ、時代性を踏まえて考えてみると、ある一定の暴力装置を持つ集団である秘密結社が、一方で外圧があり、他方で国内の混迷を背景に、この機に乗じて自らの勢力拡張を手っ取り早く行おうとしたのではなかったか。かつてであれば政治的に自ら立ち上がったかもしれないが、いわば革命の主体は別に存在し、むしろ漁夫の利を得ようとしたのではないか。この点については、もう少し勉強する必要がありそうだ。
 
ともあれ、<秘密結社は革命運動期に大きな役割を果たし>(p.45)たのであった。
<孫文は秘密結社を高く評価し、秘密結社の力によって清朝打倒を図ろうとした。>(p.46)なぜなら、<秘密結社は自衛組織である以上、ある一定の暴力を保持しており、革命勢力は、国家権力の暴力に立ち向かう必要上、秘密結社の戦闘力と結びついたのである。>(p.46
 
ちなみに、<中国人のいるところ秘密結社(洪門)ありと言われるが、米国に渡った中国人は1850年に秘密結社「致公堂」を作っている。>(p.149)ただし、本書の別な箇所では、ニューヨークのチャイナタウンにある「致洪堂」(現在では米当局が犯罪組織と認定)は1845年に成立しているとする(p.151)。1850年代にできたサンフランシスコのチャイナタウンには、独自の「市長」「市議会」がいまもあるという。もちろん公式のものではないが。
 
<黒社会は単一の組織ではない。日本の暴力団のように多くのグループに分かれている。しかし、そのグループは時に連携を取り合い、国を越えて行動している。その中心にあるのは中国人としての血だ。これを中国人自身は「炎黄の子孫」という。炎帝、黄帝の子孫である限り、中国人としての意識は存在する。また、海外に出た中国人は二世、三世になっても中国人としての意識を容易には捨てない。>(p.14
この点については、以前読んだデイヴィッド・ワイズ『中国スパイ秘録』で、中国移民の多くがいわばスリーパーとして中国本土からの指示があれば諜報活動に入る、と述べていたことを思い出す。米国籍をとろうと、中国人としての自覚が最優先される。だから「中国人であるあなたが知りうる知識を、中国のために利用するのが最善である」として、スパイ活動をする中国人二世が絶えない。黒社会も然りなのであろうか。
 
黒社会はありとあらゆる犯罪に手を染めており、それらについても随所に紹介されている。
ユニークな犯罪としては、<70年代には「睡棺材底」という新手の犯罪が生まれた。それは、優秀な人材を一流の銀行や貿易会社に送り込み、何年もかけて会社の信用を得てから、一挙に大金を騙し取るというもの>(p.107)で、まさにスパイそのものである。
また、香港の内装・改装業者の約7割が黒社会の一つ<福義興に所属する通称「大頭蔡」なる人物>によって支配されており、改装工事では<工事をしながら、同時に後で空き巣に入るときの下調べをさせる。工事用の資材も盗品であることが多く、コストが少なくてすむ>(pp.107-8)という。現在もそうなのかどうかは定かではないが、香港で内装・改装工事は頼まない方がいいのかもしれない。
 
中国・香港・台湾それぞれの黒社会組織の間では、近年連携が進んでいるという。<これを指して、黒いトライアングルと呼ぶ。…それぞれ得意分野があり、それをお互い補いあいながら発展をはかろうというものだ。/例えば、中国大陸の黒社会は密航者の提供、銃器の獲得、麻薬の入手、殺人者のリクルート、誘拐のノウハウにたけている。一方、香港や台湾の黒社会は国際社会とのつながり、外国の犯罪組織とのコネクション、語学力、巨額資金の提供などでは群を抜いている。>(p.118)こうした連携の中で、例えば中国大陸に出回っている偽札の<大部分は台湾で印刷されたものだという。台湾の印刷技術は高いため、なかなかニセ札とは判明しにくく、一部ではそのまま使われている。>(pp.123-4
 
日本に対する影響はどうだろうか。
<日本における中国人の犯罪の大半が、黒社会による組織犯罪である。…/日本における黒社会の犯罪はかなり組織的で、司令部と実行部隊があり、実行部隊としては本国から腕の立つプロを呼んで犯罪を行う傾向がある。>(p.133)のだそうだ。
 
中国でも黒社会の摘発を行なっている。だが一方で<中国共産党と香港黒社会の癒着が折に触れて問題となっている。>(p.173)これは香港が返還されるに際し、<中国政府としては、強力な香港の黒社会は「香港の民主勢力」を牽制する格好の存在と映っているのである。「毒を以て毒を制す」。これこそ中国人が昔から好んで使ってきた戦略である。>(p.173)当時の公安相や鄧小平も、堂々と「愛国的な」黒社会を擁護する発言をしているほどだ(pp.173-7)。
 
注記は出典表示であるが、書籍に関してはページの記載はあっても発行年の記載がなく、一方本文中に掲げた文献は注記には掲げずページも発行年も記載せず。なお、本文p.22にある『中国大陸黒社会』は、(注7)にある『黒社会:中国を揺るがす組織犯罪』(草思社)ではないのか。
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
デイヴィッド・ワイズ/石川京子・早川麻百合訳『中国スパイ秘録:米中情報戦の真実』原書房、20122月、2400
何頻、王兆軍/中川友訳『黒社会:中国を揺るがす組織犯罪』草思社、19974月、2500
 
 

スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

夢幻庵主人

Author:夢幻庵主人
隠居生活続行中。

最新記事
カレンダー
02 | 2020/03 | 04
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR