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『ニセモノ師たち』◆贋作(美術)について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
中島誠之助『ニセモノ師たち』講談社、講談社文庫2005715日、571円+税   [注×文×索×]
 
本書は、TV番組「開運!なんでも鑑定団」で一躍有名になった著者による、骨董品のニセモノの現実をリアルに描いた本である。ちなみに同番組については、同じ著者により『「開運!なんでも鑑定団」の十五年』で簡潔にそのスタート時のエピソードが紹介されている。
本書の元版は講談社(200110月、1600円)より刊行されている。なお、2007年には本書のダイジェスト版的な『ニセモノはなぜ、人を騙すのか?』が、角川書店より新書判ででている。
本書の構成を記しておこう。
1章 世の中はニセモノあってこそ!
2章 ニセモノ侮るべからず
3章 ニセモノが放つ「甘く危険な香り」
4章 私を騙したニセモノ師たち
5章 ニセモノ師たちのすさまじい攻防
6章 世間を騒がせたニセモノ事件簿
7章 目利きの真髄ここにあり
8章 ホンモノはあなたの手のなかに
 
冒頭、ニセモノに対する著者のスタンスを明快に記す。
<ニセモノは人間サイドに罪があってもモノには罪がない。…「非常に優れたニセモノ」は「ホンモノ」と寸分違わない出来具合です。しかし、目利きの目をもってコピー作品を見れば、「よくできているが感動がわかない」ということになり、その新旧はたちまち見破られてしまいます。>(p.20
しかし一方で、<ものごとをよくわかっている目利き、ものの道理をよくわきまえているプロ、骨董の世界ではこれを「約束事に精通している人」といいます。そういう人が日本一といわれるくらいに腕の立つ美術工芸の職人や一流工芸作家に頼んで、…約束事を指導して正確に写してもらえば、一見しただけでは原品と見分けがつかないほどに、限りなくホンモノに近い「作品」が生まれてしまう。>(p.20
<それをホンモノとして扱ってしまうのか、あるいはコピーとして扱うのか。その品を手にした人間の心の分かれ道によって、「優れもののニセモノ」が生まれるわけです。/あるいは、「写し」と呼ばれる善意のコピーとして存在するかになります。>(pp.20-1
 
著者は「ニセモノにひっかかる三条件」を掲げる(pp.32-4)。別のページでも「騙される素人の三法則」がある(pp.122-4)ので、〔 〕内で併記しておこう。
第一条件 その品物を買ったら儲かると思ったとき〔法則その1 欲が深い〕
第二条件 勉強不足〔法則その2 出発点のレベルが低い〕
第三条件 おカネがあること〔法則その3 適度に小金があり、教養もあること〕
とくに第二条件の勉強とは、<マニュアルを超えた美意識、広範囲な知識として時代背景の研究と、経験による感性の訓練が本来は必要であり、それらを欠いた勉強すなわち勉強不足から、「ひっかかる」という悲劇が生まれるわけ>であると説く(p.34)。
 
上記三条件以上に、ニセモノをつかまされる<いちばん大きな条件としていえることは、ダマサレタあなたが権威に弱い人間であったということ>(p.50)とも言う。
<古美術の世界で「先生」と呼ばれる人ほど気をつけたほうがいいものはない。…こういう場合の先生というのは、話が上手くて、カリスマ性を持っていて、非常に面白い人間で、独自の美意識・美術評論を展開するから…そういう人の周囲には人が集まってくるもんなんですね。>(p.134)…<先生のモノを見る目よりも、その人自身の魅力にどんどん引き込まれてしまう。そうなると、その人のすすめるものを高いおカネを払って文句なしに買ってしまうという図式が自然にできあがってくる。>(p.140
したがって、権威に弱いと、<目の前の対象物の実体は、自分ではまったくわからない。だから、中身がどんなものであっても、箱書きや、お墨付き、鑑定書に心を委ねてしまう。>(p.52)ということになってしまうのだ。
 
だから著者は、もっとも重要なのは人物を見分けることだと説く。『「開運!なんでも鑑定団」の十五年』に、著者はこう書いている。
<鑑定に必要なものは、決して知識や記憶力ではない。第一に品物を見分ける力ではなく、人物を見分ける直観力を持つことだ。第二に必要なものは、品物の放つ個性を感じることが出来る力量を磨くことだ。第三に必要なものは、品物が歩んできた時間的な環境を理解する推理力だ。絶対に必要としないものは欲心と妥協心と情愛だ。鑑定はそれほどに冷たいのだ。>(同書、p.92
 
著者は、先代の養父(伯父)のニセモノ作りを間近で見て、ニセモノのカラクリを学んだ。例えば、朝鮮唐津のニセ徳利(pp.79-85)、彫名を削って古染付に(pp.85-89)、古伊賀のビードロ(ガラス釉)つけ(pp.89-91)、青磁花生の貫入(ひび)を消す(pp.93-95)といった具合。
さらにプロの汚し屋による時代付けというテクニックも紹介されている(pp.109-111)。
 
さまざまなニセモノ作りのテクニックも列挙する(pp.93-101)。
茶碗はよそに流してしまってその古い箱を流用する「ハコどり」、掛軸の中身の絵は捨てて周りの裂だけを流用する「柄どり」、売り荷に混ぜたニセモノ「ネコ」、ニセモノの箱づくり「合わせ箱」、元の絵に描き加えてしまう「飛び込み」、あがり(発色)が悪くぼやけた出来の染付磁器を、もう一度窯に入れることにより色鮮やかに変色させたり傷などを消してしまう「二度窯」、など。
こうしたニセモノ作りの技術の上に、<ものごとの約束事、決まり事>(p.72)どおりにニセモノを作ったら、著者ですら騙される「名品」ができてしまうのだ。
 
1960年代の<当時の骨董業界では、「ニセモノを売ったほうは悪くない。ひっかかった同業者、お仲間のほうが悪い」というような不文律があった…目が利かないからひっかかったのであって、もっと訓練をしなさいという暗黙の了解があった。>(p.71)骨董商の言葉で、<うっかり見落とすことを「粗見(そけん)」と呼>(p.61)ぶという。
<プロの骨董商は素人に品物を見せられたとき、もしモノが悪い場合はそれがホンモノともニセモノともけっして明快な返事をしません。形がいいですねとか、色が渋いですねという具合に抽象的な言い方をして、やめろとか、ニセモノですよなどとは絶対に口が裂けてもいいません。それが商人の知恵というものです。>(p.131
著者はニセモノを頭から否定することはしない。ニセモノは消えることはないし、いくらでも出てくるのだから、それを見極める目を持つ以外に方法はないのだと。
 
著名な贋作騒動についても紹介されている。例えば、春峯庵贋作事件(pp.250-2)、永仁の壺事件(pp.252-7)、佐野乾山事件(pp.258-260)、三越ニセ秘宝事件(pp.260-4)、ガンダーラ仏像事件(pp.265-6)、などだ。
こうした贋作騒動の構図を、著者は次のように解説する。
①<一般大衆を狙って広範囲にニセモノをバラまく場合は、…一部の骨董マニア垂涎の品物が用意されます。>
②<公共団体や地方の公立美術館などを狙う場合は、きわめて有名な画家や彫刻家などの作品や、…教科書に記載されているような作品が、おのおの模倣・コピーされて準備されます。/これらのニセモノもしくはコピー作品のオリジナルとなる原品、すなわちホンモノには、名称や事蹟は知られていても、作品は大衆に馴染みが薄く、見ることの少ない品か未見の品であるという条件が必要です。>(pp.267-8
 
さらにこんな指摘もある。<掛軸は非常にむずかしい世界です。/たとえば…尾形乾山の掛軸は、同じ作品が、鑑定する学者の学界における力関係によってニセモノと判断されたり、ホンモノと鑑定されたりしています。昭和前半期と平成期では真贋が逆転するくらい、そのときの権力を握っている学閥により翻弄されるきらいがあるのです。>(p.202
だから、松本清張が中編小説「真贋の森」で描き出したような、学者の間の暗闘と作品に対する評価の揺れがもしかするとあるのかもしれない。
 
著者は言う。
<この世にニセモノがなかったら、書画骨董はこれほど流行りません。>(p.212
ゆめゆめ素人は書画骨董の世界には近づかぬほうが賢明だろう。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
中島誠之助『「開運!なんでも鑑定団」の十五年』平凡社、2008916日、1600円+税
       *表題作のみ書き下ろしで、残りは骨董や骨董商に関する既発表のエッセイ。
中島誠之助『ニセモノはなぜ、人を騙すのか?』角川書店、角川oneテーマ2120078月、686
松本清張「真贋の森」《別册文藝春秋》64号、19586月号→『真贋の森』中央公論社19597→『真贋の森:他四篇』角川書店、角川文庫、19613→〔新装版〕『真贋の森』中央公論社、1973425日、720→『松本清張全集 37 装飾評伝・短編3』文藝春秋、1973720日、1200→●『真贋の森』中央公論社、中公文庫、1974810日〔2009625日改版〕、629円+税
 
 
◆[贋作(美術)]関連ブックリスト
*贋作(美術)関連のブックリストについてはこちらを参照。


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