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『嘘を見破る質問力』◆嘘について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
荘司雅彦『嘘を見破る質問力:反対尋問の手法に学ぶ』日本実業出版社、2008620日、1500円+税 [注×文×索×]
 
先に検事の立場から、被疑者や関係者の供述の「嘘」をどのように見抜くかという本(若狭勝『嘘の見抜き方』)を読んだが、本書は、弁護士の立場から嘘を見破る手法を書いたものである。つい最近文庫化されたが改訂されているかどうかは未確認(ちくま文庫、20139月、740円+税)。若狭氏の本には各章末尾に箇条書きのまとめがあったが、本書にもあるので、刊行年から見て本書の真似かもしれない。なお、『嘘を見破る質問力』というタイトルのDVDも出ているらしい。
 
本書冒頭で、<私は「日本弁護士白書」に公表されている平均的弁護士の約10倍という膨大な弁護士経験を積んできた。>(p.1)と宣言する。
 
残念ながら、明らかな1か所の誤りと、もう1か所の怪しいところがある。別に質問力などなくとも、「嘘」が自ら明らかになることもあるのだ。
1か所の誤りとは、『日本弁護士白書』という本は存在しない。あるのは日本弁護士連合会が2002年版から発行している『弁護士白書』だ。タイトルの違いは些末なことではない。
 
もう1か所の怪しいところとは何か。「平均的弁護士の約10倍という膨大な弁護士経験」は本当だろうか。
本書の刊行時の直近に出された『弁護士白書2007年版』を見てみよう。弁護士経験の平均値といったものは掲載されていないが、「弁護士会別弁護士1人に対応する民事・家事事件数」(p.85)では、弁護士1人に対応する各地方裁判所の民事事件数および家庭裁判所別の家事事件の新受件数の表が掲載されている。この表によれば、弁護士1人に対応する民事事件数全国平均は39件、同じく家事事件数全国平均は32件である。もし仮に「平均的弁護士の約10倍という膨大な弁護士経験」なるものが民事・家事事件数であるとするなら、民事事件を390件、家事事件を320件引き受けている計算になろうか。一見多そうだが、弁護士1人に対応する民事事件数が1位の青森県弁護士会では209件であり、同じく家事事件でも青森県弁護士会が1位で188件なのであるから、単純合計では397件にもなる。

 「荘司雅彦オフィシャルWebサイト」における著者のプロフィールによれば、「1991 弁護士登録 現在東京弁護士会所属 勤務弁護士をすることなく、地元三重県伊勢市で法律事務所を開業。」という。そこでも「一般民事、刑事、家事、倒産等の事件を約200件(平均的弁護士の約10倍)常時処理しながら、地方労働委員会公益委員をはじめ、多数の行政委員を歴任した。」と記している。仮に東京弁護士会所属なら、平均では民事事件13件、家事事件7件でしかないので、単純合計で20件(刑事事件の件数はデータが掲載されていない)。荘司氏のサイトにある「約200件」が「約10倍」の件数に相当しようか。しかし、全国平均の両事件合計は71件なので、単に平均的弁護士の約3倍でしかない。繰り返すが、これには刑事事件の件数は含まれていないのだ。
だが、1991年の弁護士登録が最初から東京弁護士会かどうか不明だが、当初三重県に法律事務所を開業したということなら、「法律事務所を設置しようとする地域の弁護士会を通して、日弁連が備える弁護士名簿に登録」(日本弁護士会連合会Webサイト)することになるので、当然三重弁護士会に入会していたはずだ(なぜかプロフィールには「現在東京弁護士会所属」と、三重県で活動していたときの所属弁護士会名が意図的に伏せられている)。そこで三重弁護士会の所属弁護士の平均件数を見ると、民事事件123件、家事事件125件である。単純合計すれば248件。「約200件」は三重県弁護士会の平均的弁護士以下ということになる。つまり証拠(出典)を誤記し、あまつさえ基準点となる数値を曖昧にした、数字のトリックに過ぎなかったわけだ。もしかしたら著者が好きな「ハッタリ」p.103だったのだろうか。
 
本書では、ウェルマンの『反対尋問の技術』から4か所も引用している(同書以外の文献はなぜか明記せず)。
同書の原題をThe Art of Cross-Examination という。本書によれば邦題で<「技術」という用語を用いているにもかかわらず、著者のウェルマンは原題で「Art」という言葉を用いている点です。Techniqueではなく。/これは、とりもなおさずウェルマンをはじめとするアメリカの法廷弁護士が、反対尋問を一種の「芸術」だと考えていたことを示しています。…反対尋問は、もはや「技術」の域を超越して「芸術」の域まで達しているといっても過言ではありません。>(pp.18-9
Art」だから機械的に「芸術」とみなす必要はない。普通の英和辞典でも「Art」の訳として「技術」とか「技法」「こつ」などと出ているのだから(注1
 
元検事・若狭勝氏の嘘の見抜き方と、本書の弁護士のやり方とは、かなり似通ったところがある。
そのなかで、少しユニークなやり方としては、例えば<「外堀を埋めて退路を断つ」ための質問>p.23の方法として、<証人の立場になってみて、どのように逃げるかを想定し、想定できるあらゆる逃げ道を事前に塞いでおいてから、決定的な証拠を突きつけるのが、真実を語らしめる有効な方法です。>p.23と説明する。
また、<「望んでいない答えを引き出すフリをする」質問をすることによって、質問者が本当に望んでいる答えを引き出すこともできる。>p.29
 
一方で、<人間というものは、一度証言した事柄と矛盾した行動をとることを嫌い、できれば「一貫性」を保ちたいと考える傾向が強い。>p.30さらに、仮に嘘をついている場合も、<意識的もしくは無意識的に「つくられた記憶」に基づいて、「主観的」には真実を述べている>p.56とする。弁護士は刑事事件ばかりでなく、民事もやっているせいだろうか。
<あなたが思っている以上に人間というものは嘘をつくことが苦手だ。>(p.76<「思い込みの記憶違い」と「悪意の嘘つき」を見分けることは、実は大変至難の業なのです。>(p.86)このあたり検事の見方と違うのかもしれない。
 
<特徴的な嘘つきの身体動作>(p.92をいくつか列挙している。このあたりは若狭勝氏の言う「態度の嘘反応」とよく似ている。ただし、より女性と男性の違いを明確にしているあたりが違いか。例えば<証人が男性の場合、嘘を言うとき、つい目をそらせてしまいます。/逆に、女性の場合は、嘘を言っているとき、私に目を合わせてきます。>(p.95)<女性は、男性よりもはるかに嘘が上手です。>(p.128
 
真実を語らせるには証言の矛盾を考えるのだそうである。
<①まず、相手の言い分と「客観的事実」の矛盾が最優先/②相手の言い分の中での矛盾が二次的>(p.177
とくに②を先に指摘すると、言い間違いに過ぎないと逃げられてしまうという。
 
最後のあたりで、「法律家の論理学」なるものを述べている。
<①「結論」が先にあり /②「理由」は、結論をもっともらしく見せるための理屈(論理)としてのみ意味がある>(p.163
裁判官の判決も「結論」ありき、だと。だから判決文の主文はともかく、「結論をもっともらしく見せるための理屈(論理)」だから、あとは日本語にもならない意味不明の文章の堆積にすぎないわけだ。このことを読んだだけでも本書を読んだ意味はあった。
 
ちなみに、Wikipedia「判決」の項にある日本の判決書の特徴を一部掲げておこう2013/09/23確認)
· 一つの文が極めて長大であり、いかに読解力に優れる者でも読み返さなければ論旨が理解できない。また、不必要な美辞麗句が過剰に並べ立てられている。
· 日本語の誤用が顕著である。特に、「けだし」の意味を「なぜなら」と取り違える用法が知られ、これは既に法律家の世界での業界用語として定着している。>

 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
日本弁護士連合会編著『弁護士白書2007年版』日本弁護士連合会、2007111日、2381円+税
フランシス・L・ウェルマン/林勝郎訳『反対尋問の技術 上 第1反対尋問の原理』青甲社、19732
フランシス・L・ウェルマン/林勝郎訳『反対尋問の技術 下 第2著名反対尋問の実例』青甲社、1975
Francis Lewis Wellman, The Art of Cross-Examination, 1903
若狭勝『嘘の見抜き方』新潮新書2013530日、680円+税
 
(注1手近にある英和辞典で示す。
『小学館ランダムハウス英和辞典(パーソナル版)上』(小学館、1975121日、上下9800円)では、「7 (技術・学問の分野などの)技法、術、要領」「9 (一般的に人間の)特殊技術、技能」「13 こうかつ、ずるさ、手管、策略」
『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店、2001425日、16500円+税)では、「3 技術、こつ、要領;(芸術的)手腕、わざ、技巧」
 
 
◆[嘘]関連ブックリスト
嘘をテーマにした文献についてはこちらを参照。

 

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