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『出逢った日本語・50万語』◆辞書編纂について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
松井栄一『出逢った日本語・50万語:辞書作り三代の軌跡』筑摩書房、ちくま文庫、2013810日、860円+税 [注×文×索○]
 
本書は、小学館から発行された『日本国語大辞典』の編者が、三代にわたって辞書編纂にあたってきたことを記す。元本は、小学館から200212月(1800円+税)に刊行されている。ちなみに著者の名前「栄一」はなんと「しげかず」と読む。今野真二の『漢字からみた日本語の歴史』をとりあげた際、名前の付け方に<漢字の読みは一切制限がない>(同書pp.175-6)ばかりでなく、極論を言えば<「かをる」と書いて、「リリカ」と発音してもよいはず>(同書p.175)となってきているという指摘を紹介したが、その類いと言うべきか。
巷では一時三浦しをんの『舟を編む』が、出版業界こぞっての持ち上げ方の様子で、国語辞典の編纂という地味な仕事にも脚光が当てられたかのような状況だった。同書はどうしようもないお粗末な内容だったので、そろそろ消えてしまったかもしれないが。
 
ともあれ、本書の目次を掲げておこう。
松井簡治と『大日本国語辞典』
松井簡治の日常こぼれ話
『日本国語大辞典』(初版)の内側
『日本国語大辞典』(第二版)をめぐって
国語辞典の用例について
用例資料にまつわる話
松井驥の歩んだ道をたどる
ピンチヒッター人生
付録『近代国語辞書の歩み――余説第二章』について
章番号はないが、辞書編纂に関しては13456と付録が主たる章となる。
 
とりわけ『日本国語大辞典』の初版編纂時、および第二版の編纂時の苦心談は読ませる。なかでも第二版における見出しの配列の見直しの試行錯誤(pp.117-126)や用例の追加・年代表示や底本の変更(pp.129-164)は、<底本を変えて手直しをした項目は他にもある。こういうあまり目立たない改訂の積み重ねが辞書を育ててゆくのには重要だと考えている。>(p.157)まさに細部こそが肝腎なのだ。
 
しかし、本書では電子辞書志向の強まりについて何も触れてはいないが、各社とも電子辞書メーカーに安く提供してしまっているがゆえに、こうした細部などどうでもよい、という傾向がありはしないか。多少電子辞書に触れると、そんな危惧を覚える。
 
もう一つ本書で読ませるのは付録だ。山田忠雄述『近代国語辞書の歩み:その摸倣と創意と』における『日本国語大辞典』への手厳しい批判への反論である。
まず<述者[山田忠雄]の誤った思い込み…をもとにした記述が多い>(p.233)ことを具体的に指摘。さらに個別の批判にも事実誤認が多いと、一つ一つ反証を掲出していく。
<悲しいと強く感じたことである。それは自分の至らなさについてでもあるが、それだけではなく、本格的な辞書批判と言われているこの本が、こきおろしやののしりの言葉に満ちているということについてである。>(p.234
老生も反省すべきかもしれないが(『舟を編む』の具体的な批判はそのうち)。
 
巻末の索引は「ことば索引」「書名等索引」「人名索引」と、一見充実しているように見えるが、なぜか付録(pp.226-263)については一切無視しているらしく、『近代国語辞書の歩み』の項にも「山田忠雄」の項にも「226」はない。索引全体におざなりな編集が感じられる。
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
日本大辞典刊行会編集『日本国語大辞典』全20巻、小学館、197212月~19762月、各5800
日本国語大辞典第二版編集委員会、小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第2版』全13巻+別巻、小学館、200012月~200212月、各15000
今野真二『漢字からみた日本語の歴史』筑摩書房、ちくまプリマー新書、2013710日、780
三浦しをん『舟を編む』光文社、20119月、1500円+税
山田忠雄述『近代国語辞書の歩み:その摸倣と創意と』全2冊、三省堂、19817月、全39000 (税込)
 
 
◆[辞書編纂]関連ブックリスト
*調査が不十分なので、後日改めて掲載することもあろう。
 
◆日本の辞書
〔訂正版〕上田万年『国語のため』富山房、1897年(2版)
*附:日本大辞書編纂に就きて
大村喜吉『斎藤秀三郎伝:その生涯と業績』吾妻書房、1960
山田忠雄『三代の辞書:国語辞書百年小史』三省堂、1967年→〔改訂版〕《三省堂ぶっくれっと》特別記念号、19813月、非売品
*三省堂の『新明解国語辞典』の編集主幹を務めた。
◎新村猛『「広辞苑」物語』芸術生活社、芸生新書、1970年、380
◎特集「辞典の歴史と思想:作る人と引く人の対話」《思想の科学》63号、19766月臨時増刊、思想の科学社、600円 
*巻末に、勝又美佐子「辞典・事典に関する参考文献」pp.201-7。ただし辞書編纂に関する文献はわずか。
山田忠雄述『近代国語辞書の歩み:その摸倣と創意と』全2冊、三省堂、19817月、全39000 (税込)
原田種成『漢文のすゝめ:諸橋『大漢和』編纂秘話』新潮社、新潮選書、19929月、1050 (税込)
*諸橋轍次は『大漢和辞典』の編集方針だけ決めるとあとは1行たりとも書かずにプロモーターに徹して編纂に全く関与しなかったことを、編纂実務担当者が明らかにする。諸橋『大漢和』と俗称されるが、その冠は取り除くべき。
倉島節尚『辞書は生きている:国語辞典の最前線』ほるぷ出版、ほるぷ150ブックス、19951月、1500 (税込)
*三省堂の『大辞林』(初版)刊行時の編集長。
紀田順一郎『図鑑日本語の近代史:言語文化の光と影』ジャストシステム、19977月、4600
犬飼守薫『近代国語辞書編纂史の基礎的研究:『大言海』への道』風間書房、19993月、21500
倉島節尚『辞書と日本語:国語辞典を解剖する』光文社新書、200212月、700
松井栄一『出逢った日本語・50万語:辞書作り三代の軌跡』小学館、200212月、1800【本書】●ちくま文庫、2013810日、860円+税 [注×文×索○]
松井栄一『国語辞典はこうして作る:理想の辞書をめざして』港の人、200512月、2200
安田敏朗『辞書の政治学:ことばの規範とはなにか』平凡社、20062月、2800円+税
早川勇『日本の英語辞書と編纂者』春風社、愛知大学文學會叢書1120063月、6600
倉島節尚編『日本語辞書学の構築』おうふう、20065月、15000
堀江剛史『大武和三郎:辞書編纂と数奇な生涯:日伯友好の礎(ブラジル日本移民100周年記念)』サンパウロ人文科学研究所、ブラジル日本移民史料館、20085
倉島節尚『日本語辞書学への序章』大正大学出版会、200810月、4700
倉島長正『国語辞書一〇〇年:日本語をつかまえようと苦闘した人々の物語』おうふう、20105月、2500
竹下和男『英語天才斎藤秀三郎:英語教育再生のために、今あらためて業績を辿る』日外アソシエーツ、20113月、4760
米山優子『ヨーロッパの地域言語〈スコッツ語〉の辞書編纂:『古スコッツ語辞典』の歴史と思想』ひつじ書房、20132月、8800円+税
http://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-89476-634-1.htm
飯間浩明『辞書を編む』光文社新書、20134月、800円+税
*『三省堂国語辞典』の編纂担当者による。
今野真二『『言海』と明治の日本語』港の人、20139月、2800円+税
◆海外の辞書
ジェイムズ・ボズウェル/中野好之訳『サミュエル・ジョンソン伝』全3巻、みすず書房、1巻:19815月、第2巻:19825月、第3巻:198312月、各8000 (税込)
James Boswell, Boswell's Life of Johnson
パット・ロジャーズ/永嶋大典監訳、日本ジョンソン・クラブ共訳『サミュエル・ジョンソン百科事典』ゆまに書房、19992月、15000
Pat Rogers, The Samuel Johnson Encyclopedia
●サイモン・ウィンチェスター/鈴木主税訳『博士と狂人:世界最高の辞書OEDの誕生秘話』早川書房、19994月、1800円→早川書房、ハヤカワ文庫NF20063月、740
Simon Winchester, The Professor and the Madman
◎ハーバート・C・モートン/土肥一夫・中本恭平・東海林宏司訳『ウエブスター大辞典物語』大修館書店、199912月、3800
Herbert Charles Morton, The Story of Webster's third
http://plaza.taishukan.co.jp/shop/Product/Detail/20887
早川勇『辞書編纂のダイナミズム:ジョンソン、ウェブスターと日本』辞游社、20013月、6800
早川勇『ウェブスター辞書と明治の知識人』春風社、200711月、3800
ヘンリー・ヒッチングズ/田中京子訳『ジョンソン博士の『英語辞典』:世界を定義した本の誕生』みすず書房、200712月、5800
Henry Hitchings, Dr Johnson's Dictionary
◆辞書批判
杉本つとむ監修『国語辞書を批判する』桜楓社、19797月、800
金武伸弥『『広辞苑』は信頼できるか:国語辞典100項目チェックランキング』講談社、20007月、1500
石山茂利夫『裏読み深読み国語辞書』草思社、20012月、1600円→草思社文庫、20128月、680
谷沢永一・渡部昇一『広辞苑の嘘』光文社、200110月、1200
高島俊男『広辞苑の神話:お言葉ですが…4』文藝春秋、文春文庫、20035月、619
●西山里見『講談社『類語大辞典』の研究:辞書がこんなに杜撰でいいかしら』洋泉社、20043
石山茂利夫『国語辞書事件簿』草思社、200411
川本信幹『日本語通の日本語知らず:広辞苑よ、おまえもか』主婦の友インフォス情報社、20064月、1600
石山茂利夫『国語辞書:誰も知らない出生の秘密』草思社、20076
小説
三浦しをん『舟を編む』光文社、20119月、1500円+税
◆参考
◎熊田淳美『三大編纂物群書類従・古事類苑・国書総目録の出版文化史』勉誠出版、20093月、3200
佐滝剛弘『国史大辞典を予約した人々:百年の星霜を経た本をめぐる物語』勁草書房、20136月、2400
 

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