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『モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん』◆修復について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
岩井希久子『モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん:修復家・岩井希久子の仕事』美術出版社、2013615日、2200円+税 [注×文×索×]
 
本書は、修復家・岩井希久子が美術作品の修復という仕事がどういうものであり、どのような姿勢でやってきたかを語った本である。
 
冒頭から厳しい現実が突きつけられる。<世界に現存する名画のうち、およそ8割は過去の修復によってオリジナルの状態をとどめていないという事実です。じつは、過去に行われた不適切な修復が、絵にダメージをあたえていることがあまりに多いのです。>(p.25)だから、著者はこう考える。<修復は破壊と紙一重。…修復もひとつ間違えれば、状態が悪化してしまいます。…もっとリスクの少ない、絵にやさしい修復はできないかと考えるようになったのです。>(p.58
 
<自分らしい修復とはなんだろうと考えると、それは作品のオリジナルの風合いを最大限に生かすこと、そして、それをどうやって維持するかにかかっています。>(p.91)そこで、脱酸素剤エージレスにヒントを得た「低酸素密閉」の技術を開発したり、杉材で格子の骨組みとしそれに和紙を何層にも重ねた「IWAI保存パネル」などを工夫するなど、修復技法の開発も怠りない。
究極の修復とは、<これ以上、絵が酸化しないように、劣化させないようにして、単純に残すという作業も、自分の仕事の選択肢のひとつとしてあるのではないか>(p.216)と考えるに至る。修復に関して保守主義者を自認するゼーリの意見もおそらくここに帰結するのかもしれない。
 
重要な指摘がなされている。<ヨーロッパの美術館には修復家がいて、絵の11点にカルテのようなコンディションレポートがあり、それに作品の状態を書き込んでいくのがふつうですが、日本の美術館には修復部門がないので、こうしたチェックがきちんと行われていませんでした。>(p.56
具体的な例として、2009年に行われた「日本の美術館名品展」(東京都美術館)での体験を述べる。この展覧会は美術館連絡協議会加盟の公立美術館100館が、名品220点を出品したもの。当然各館の自慢の作品を出したのであろう。
<このとき展覧会のコンディションチェックを担当しましたが、…あまりの状態のひどさに愕然としました。>(p.122)<コンディションレポートがついてきたのは2館くらい。…ガラスの内側が曇っているものさえありました。破れたまま送られてきた絵もありましたし、…額のガラスが斜めに入れられて割れそうなものもありました。…「名品展」なのに、どれも保存状態がよいとはいえず、よく管理してあると思える絵はほとんどありませんでした。>(p.123
 
こうした現状に対し、著者は怒る。<もし美術館に修復部門があって修復家がいたら、絵の管理は担当できるはずなのですが、そこが抜け落ちてしまっているのが日本の美術館。そんなことなら100館も美術館をつくらなくていいと思います。…美術館をつくるのに修復部門がなく、つくる予定もないなんて、言語道断です。そこが日本の文化レベルの低さだと思います。>(p.126)ハコモノ行政の悪しき部分が、ここにも顕在しているのだ。知事や市長が自分の業績をつくらんとして、テープカットするまで、あるいはあわよくば自らが館長にもなって、芸術=文化の体現者というアウラを身にまとうために。
 
6か所に分載された「修復技法コラム」は、修復の道具や、油絵・紙作品の修復方法、作品のコンディションチェック、「低酸素密閉」の技術など、もっと詳しく読みたいところ。
 
残念ながら長すぎるタイトルは、せっかく著者自身が<修復家の人柄というのは大事だと思いますし、謙虚であれとつねづね自分に言い聞かせています。>(p.134)と言っている以上、「謙虚」とは対極にあるようなタイトルと言えよう。恐らく出版社側の「内容がタイトルさえ読めばわかるようなタイトルでなくちゃ売れませんよ」という脅し文句で、つけられてしまったのだろうか。
さらに言えば、本書は奥付に「聞き取り・構成 榎本市子」とあるので、ライターによる聞き書きと知れるのだが、記述内容の重複が目立つのは話したままをろくに整理せずに文章化したためか。せっかくのいい内容が、引き締まらずに水増し状態なのが惜しまれる。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
フェデリコ・ゼーリ/大橋喜之訳『イメージの裏側:絵画の修復・鑑定・解釈』八坂書房、200014日、2800円+税
 
 
◆[修復]関連ブックリスト
*美術関連の修復をテーマにした文献についてはこちらを参照。


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