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『嘘の見抜き方』◆嘘について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
若狭勝『嘘の見抜き方』新潮社、新潮新書、2013530日、680円+税 [注×文×索×]
 
本書は、26年間検事を務めた著者が、検事時代に培った尋問技術を通じて、被疑者や関係者の供述の「嘘」をどのように見抜けばいいかの簡単なガイドブックである。検事とは逆に弁護士の立場から嘘を見破る手法を書いた本として、例えば荘司雅彦『嘘を見破る質問力:反対尋問の手法に学ぶ』があり、同書はつい最近文庫化された。
 
本書によれば、嘘をつく場合には4つのパターンに分類できるという。
<①自分を守ろうとする「防御の嘘」
②自分を大きく見せようとする「背伸びの嘘」
③他人を陥れるための「欺瞞の嘘」
④他人を守るための「擁護の嘘」>(p.17
①~③は自分のためにつく嘘であり、④は人のためにつく嘘ということになる。
 
②は、<プライドと恥が動機となって生み出されることが多い。プライドが高い人は、そのプライドを守るために嘘をつき、恥を恐れる人はそれが明るみに出ないように嘘をつきます。>(p.22
一方、③の嘘は例えば詐欺が該当する。<詐欺師の供述というのは徹頭徹尾嘘だらけ。…罪悪感を感じている人が少ないのです。>(p.28
④は、<典型的なのは、政治家のために秘書が罪をかぶる、経営陣のために平社員が責任をとる、組織のために下っ端が犠牲になるなどのケース>である(p.28)。
 
さて、嘘を見抜くステップとして、次のように説明する。
<私は、「①嘘に感づく→②嘘を確かめる→③嘘を断定する」という三段階で嘘を解体していきます。>(p.36
 
まず「①嘘に感づく」ために、嘘をついた人に表われる「言葉の嘘反応」と「態度の嘘反応」に気づくことが重要であるとする。
 
「言葉の嘘反応」とは、<言葉の内容や発言の仕方に含まれるサイン>(p.52)のこと。例えば、政治家が愛用する「覚えていません」「記憶にありません」とか、「やっていません」「関係ありません」などという発言は、まさに嘘反応なのである(p.53)。
また、<核心的な質問をされたとき、直接答えずにはぐらかしたり、過度に一般化した話し方をしたり、逆に同じ質問を投げ返したりする>「話のすりかえ」もそうです(pp.54-5)。<個人的に、このすりかえがうまいと思うのは橋下徹・大阪市長です。>(p.55
<地方自治体の議会では、市長など行政のトップに「反問権」を与えていません。議会が首長の政策を追及する中で、逆質問ではぐらかすことを封じているのです。/しかし、橋下市長は、大阪市議会に反問権を要求しています。逆質問の効力を知っているからでしょう。すでに記者会見では、記者に対して逆質問を繰り返し、最後まで質問に答えない姿が散見されます。>(p.57) さすがにだてに弁護士をやっていたわけではありませんね。反対尋問や「話のすりかえ」で、いつのまにか質問しているほうが質問されているほうに、攻守を替えてしまおうというせこいテクニックだったわけ。新聞記者の皆さんも、橋下市長へ質問するときは、ぜひ「話のすりかえ」はやめるよう進言してください。昔買ったまま読んでもいないウェルマンの『反対尋問』で勉強でもしておきましょうか。
 
「態度の嘘反応」は、作り笑い、怒り、つま先の方向(胴体の方向:早くその場から逃げたいという態度)、腕組み、意味のない落書きやボールペンなどを弄ぶ代償行動、下唇を噛むなど(pp.75-80)のこと。
なかでも<目をそらす人は「嘘をついている」「やましいことがある」と考えられて>(p.73)いるが、嘘をつくプロである詐欺師などは、<アイコンタクトが多く、相手をじっと見つめ、視線をそらさないのです。「誠実さを表すサイン」だと世間で認知されているからこそ、それを逆にとり、意識的にやっているそうです。>(p.74
 
「②嘘を確かめる」ために質問をする。それにもいくつかのコツがある。例えば、<ストレートに尋ねるのではなく、心理的負担の少なそうな質問を数多く尋ねてみるほうが、事実関係を正確に把握することができます。>(p.103
 
しかし、普通のやり方では、なかなか嘘が見抜けない場合もある。
<たとえ素人の演技でも、感情を表さなければ嘘をつき通すことは可能>(p.128)だし、あるいは<話に真偽がまざりあっている場合、どこまでが真実でどこまでが嘘なのか判別しにくいので、起訴できない可能性が高い>(p.134)ことにもなる。詐欺師は、<すぐに確認できてしまうことについては嘘をつかないけれど、確かめようのないことについては、まるで本当に起こったことのように細かく嘘がつける>(p.132)のだ。
 
なお、目撃については<「人の同一性」はきわめて脆く危うい>(p.153)と述べ、<人は「距離」「時間」「速度」「色彩」の記憶が弱い>(p.155)と断定する。いかに目撃証言が危ういか。それも<時の経過と共に本来の正しい記憶が薄れていくにつれて、真実でない「嘘の記憶」がそれに代わって定着していくのです。>(p.163
目撃の危うさについては『錯覚の科学:あなたの脳が大ウソをつく』で紹介した通り、注意力の錯覚という問題もある。

本書は検事としての被疑者に対する尋問マニュアルに近いが、それを離れても、世の中にはびこっている嘘――とりわけ政治家の嘘を見抜く方法を知ることができようか。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
荘司雅彦『嘘を見破る質問力:反対尋問の手法に学ぶ』日本実業出版社200861500円→ちくま文庫、20139月、740
ウェルマン/梅田昌志郎訳『反対尋問』旺文社文庫、197910月、680
Francis Lewis Wellman, The Art of Cross-Examination. 4th ed.
 
 
◆[嘘]関連ブックリスト
*騙し、詐欺については別項にてまとめる。
 
●紀田順一郎『日記の虚実』新潮選書、19882月、800円→ちくま文庫、1995年1月、680円 (税込)
三宅進『ウソ発見:研究室から犯罪捜査へ』中央公論社、中公新書、19896月、520 (税込)
浜田寿美男『自白の研究:取調べる者と取調べられる者の心的構図』三一書房、19925月、7800円 (税込)→〔新版〕北大路書房、20057月、7800
P.エクマン/工藤力訳編『暴かれる嘘:虚偽を見破る対人学』誠信書房、199211月、3399 (税込)
Paul Ekman, Telling Lies : Clues to Deceit in the Marketplace, Politics, and Marriage, 1985
渋谷昌三『人はなぜウソをつくのか:悪いウソ、善いウソを見きわめる心理学』河出書房新社、Kawade夢新書、19966月、680円 (税込)→〔改題〕『ウソつきの心理学』河出書房新社、KAWADE夢文庫、20048514
M・スコット・ペック/森英明訳『平気でうそをつく人たち:虚偽と邪悪の心理学』草思社、199612月、2266 (税込)→草思社、草思社文庫、20118月、950
Morgan Scott Peck, People of the Lie : The Hope for Healing Human Evil, 1983
平伸二『表出行動とウソ発見の心理学』多賀出版19982月、8500
浜田寿美男『私のなかの他者:私の成り立ちとウソ』金子書房、199811月、2200
平伸二・中山誠・桐生正幸・足立浩平編『ウソ発見:犯人と記憶のかけらを探して』北大路書房、20005月、2200
浜田寿美男『自白の心理学』岩波新書、20013月、700
浜田寿美男『〈うそ〉を見抜く心理学:「供述の世界」から』日本放送出版協会、NHKブックス、200231070
チャールズ・V.フォード/森英明訳『うそつき:うそと自己欺まんの心理学』草思社、200241800
Charles V. Ford, Lies! Lies! Lies!, 1996
エドゥアルド・ジアネッティ/山下篤子訳『人は嘘なしでは生きられない』角川書店、20029月、1900
Eduardo Giannetti, Lies We Live by : The Art of Self-Deception, 1997
金子雅臣『役人はなぜウソをつくのか』日本評論社、200311月、1600
マーティン・プリマー、ブライアン・キング/有沢善樹訳『本当にあった嘘のような話:「偶然の一致」のミステリーを探る』アスペクト、200491400円→〔副題なし〕『本当にあった嘘のような話』アスペクト、アスペクト文庫、201211月、648
Martin Plimmer, Brian King, Beyond Coincidence
浜田寿美男『取調室の心理学』平凡社新書、20045月、700
Jonni Kincher/古川聡監訳、上田勢子訳『ほんとうのウソの本』丸善、200491600
Jonni Kincher, The First Honest Book about Lies
松野凱典『科捜研うそ発見の現場:心理学の立場から犯罪をみる』朱鷺書房、2004101800
斉藤勇『人はなぜウソをつくのか?』毎日新聞社、2004111300
★●箱田裕司、仁平義明編『嘘とだましの心理学:戦略的なだましからあたたかい嘘まで』有斐閣、20067302800[注×文◎索◎]
デイヴィッド・リヴィングストン・スミス/三宅真砂子訳『うそつきの進化論:無意識にだまそうとする心』日本放送出版協会、200682000
David Livingston Smith, Why We Lie
藤沢晃治『疑う技術:ウソを見破る9つの視点』PHP研究所、PHP新書、200610700
浜田寿美男『自白が無実を証明する:袴田事件、その自白の心理学的供述分析』北大路書房、法と心理学会叢書、200610月、3600
●掛谷英紀『学者のウソ』ソフトバンククリエイティブ、ソフトバンク新書、20072700
ブライアン・キング/ルディー和子訳『ウソをつくサル:あの人が真実を語らないワケ』ダイヤモンド社200731429
Brian King, The Lying Ape
マリーア・ベッテッティーニ/谷口伊兵衛、ジョバンニ・ピアッザ訳『物語嘘の歴史』而立書房、20073月、2500円+税
Maria Bettetini, Breve storia della bugia
荘司雅彦『嘘を見破る質問力:反対尋問の手法に学ぶ』日本実業出版社200861500円→ちくま文庫、20139月、740
菊池聡『「自分だまし」の心理学』祥伝社新書、20088月、780
キャスリン・シュルツ/松浦俊輔訳『まちがっている:エラーの心理学、誤りのパラドックス』青土社、20121月、3360
Kathryn Schulz, Being Wrong
【本書】●若狭勝『嘘の見抜き方』新潮新書2013530日、680円+税
 

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