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『漢字からみた日本語の歴史』◆漢字について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
今野真二『漢字からみた日本語の歴史』筑摩書房、ちくまプリマー新書、2013710日、780円+税 [注×文×索×]
 
本書は、<漢字をまんなかにおいて、日本語の、中国語との結びつきの中で形成されてきた歴史をふりかえってみることを目的>(pp.22-4)とした本である。
 
基本的には「ちくまプリマー新書」は恐らく高校生あたりを読者に想定しているのではないかと思う。実際、本書においても何度も高校の国語(古典)教科書から例を引いたりしている。しかし、決してレベルを下げているわけでもなく、わかっていないことはわかっていないと書き、日本語史研究でどこがまだ研究されていないかを明示したりする。例えば、前者であれば、『平家物語』平松家本は漢字だけで書かれているが日本語の語順そのままである。<なぜそんなことをしたかという疑問がすぐにわいてくるが、その疑問に答えるのは簡単ではない。結局は「漢字だけで書いてみたかった」という、答えになっているかどうかわからないような答えでしかない。>(pp.95-6)また後者であれば、<どのような漢語が仮名で書かれているかというデータの蓄積がまだ充分ではない。したがって、これは今後の研究課題ということになる。>(p.137
こうした新書であれば、快刀乱麻、すべてに答えが用意されている、というのが通例ではないだろうか。高校生向けともなれば、少なくともわかっていることだけを書こうとするだろう。しかし、著者はこう言う。<気の利いた「結論」がすぐに求められる時代であるように感じることが少なくない。…根拠に基づく推論を積み重ねていく、という地道な、しかし論理的な思考も大事にしたい。そして、そのようにして構築されていない「意見」に対しては、「おかしいのではないか」と疑問をもったり、批判的な思考ができるようになって欲しい。>(p.51
高校生でなくとも、この姿勢を大事にしたい。
 
著者の主張の一番重要な点は、次のような指摘ではないだろうか。<中国語は漢語となったが、それは和語との関わりの中で漢語となったということであり、漢語と和語との中間には、いわば「緊張関係」のようなものが維持されてきた。それはおそらく明治、大正のある時期まで続いていた。しかし、現代はその「緊張関係」がない。どの語が和語で、どの語が漢語か、という語種の感覚が相当に希薄になってきている。>(p.83)したがって、この「緊張関係」が失せた現代では、名前の付け方にしても、戸籍法が<名前の選択は自由で、名前を文字化するにあたって使うことのできる文字を制限している>(p.175)にすぎないため、<漢字の読みは一切制限がない>(pp.175-6)ばかりでなく、極論を言えば<「かをる」と書いて、「リリカ」と発音してもよいはず>(p.175)となってきていると指摘する。
<「漢字の向こうに漢語をみない」書き方、「義」を捨てた、「音」優先の漢字使用>(p.177)が現代のわけだ。
 
本書の最後で、「美しい日本語」というのはおかしいと主張する。<「美しい日本語」があるのなら、「美しくないX語=醜いX語」という言語Xがあるのだろうか。…特別な言語というものはない。言語はすべて等価値である。日本語を美しいというのだったら、あらゆる言語が美しい。>(p.188)オリンピックの日本招致が決定し、ますますヒステリックなナショナリズムが叫ばれかねない今日、「美しい日本語」なんて存在しない、とはっきり言いたい。
 
本書の中心テーマではないが、辞書の見方を簡潔に示唆してくれている。<どのような形式の辞書であっても有効な「みかた」を示したいが、「見出し項目+語釈」という形式で辞書をとらえるのが有効と考える。「見出し語」という表現を使わないのは、見出しとなっているものが厳密には「語」でない場合もあるということを考え併せてのことである。>(p.64
ちなみに明治20年頃を境に漢語辞書の出版が前の20年間に対し、後の約20年間では半減してしまうという研究成果を紹介し、<ここでは一つの予想として述べておくが、明治20年頃になると、社会も落ち着き始め、…日本語も落ち着き始めたということではないだろうか。そうした中で、国語辞書を作るという環境が整ったと考えておきたい。>(p.145)辞書については、著者が間もなく『『言海』と明治の日本語』という本を刊行する予定なので、これはぜひ読みたいところ。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
▽今野真二『『言海』と明治の日本語』港の人、20139月、2800円+税

 
 
◆[今野真二]関連ブックリスト
 
『仮名表記論攷』清文堂出版、20011月、15500
『文献から読み解く日本語の歴史:鳥瞰虫瞰』笠間書院、200511月、3800
『消された漱石:明治の日本語の探し方』笠間書院、20086月、4800
『大山祇(おおやまつみ)神社連歌の国語学的研究』清文堂出版 20098月、13500
●『振仮名の歴史』集英社新書、20097月、700
『文献日本語学』港の人、200911月、2800
『日本語学講座1書かれたことば』清文堂出版、201011月、3500
『漢語辞書論攷』港の人、201110月、3000
『日本語学講座2二つのテキスト(上)明治期以前の文献』清文堂出版、20114月、3500
『日本語学講座3二つのテキスト(下)明治期の文献』清文堂出版、20114月、3500
『日本語学講座4連合関係』清文堂出版、201110月、3500
『日本語学講座5『節用集』研究入門』清文堂出版、20124月、3500
●『百年前の日本語:書きことばが揺れた時代』岩波新書 20129月、700
『ボール表紙本と明治の日本語』港の人、201210月、3000
『日本語学講座 第6巻 明治期の辞書』20131月、3500
『正書法のない日本語』岩波書店、そうだったんだ!日本語、20134月、1600
【本書】●『漢字からみた日本語の歴史』筑摩書房、ちくまプリマー新書、2013710日、780円 
『常識では読めない漢字:近代文学の原文を味わう』すばる舎、20138月、1500
▽『『言海』と明治の日本語』港の人、20139月、2800
 

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