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『丁寧を武器にする』◆エスコヤマについて

某月某日、こんな本を読んだ。
 
小山進『丁寧を武器にする:なぜ小山ロールは11600本売れるのか?祥伝社、20121110日、1500円+税
 
本書は、小山ロールで有名なエスコヤマのパティシエ小山進の初のビジネス書ということになる。
ケーキのアイデアが浮かぶと、普通はまず試作してみるだろう。だが、著者によれば、<まず企画を考える。そのテーマで何を伝えたいのかを考えるのだ。…試作をする前の段階で、企画書を作ってしまうのだ。>(p.43)そう、<すべての想い、つまりストーリーを商品に入れ込む>ことを最優先に考える(p.45)。
 
そのために<リサーチやマーケティングは過去のものであり、むしろ新たな可能性の芽を摘んでしまう。…僕は、いつもお客様が今まで気づいていなかったことに気づいていただけのようなスイーツを作りたいと思っている。>(p.130) 今は満ち足りている時代なのだから、<プロとして「これが、あなたの欲しいものではないですか?」と提案していかなければならない。>(p.123
 
著者のケーキの作り方は、レシピブックを見る限りでも、非常に丁寧で、きめ細かい。
実は著者の最初に見た本が『ショコラ・ジャポネ』だった。タイトルからは、何となく抹茶大好きの青木定治氏の亜流かと誤解したものだが、しかしチョコレートを作り上げる際も、よくありがちな「ヴァローナ命」みたいなブランド志向と違い、複数のクーベルチュールを組み合わせたりして、ひとつひとつに最善の味を作り上げていることが伺える。「シャンパントリュフ」で例を挙げると、センターのシャンパンガナッシュにはベルコラーデの「レ・コレクシオン・コスタリカ」(カカオ分38%のミルクチョコレート)+ヴァローナの「イボワール」(カカオ分35%のホワイトチョコレート)を約101の割合で入れる。そうすると<色合いも味わいもおだやか>(同書p.70)になるのだ。今年の春は、このレシピを参考に、越乃寒梅チョコを作ってみた。
 
エスコヤマは店舗を兵庫県三田市1か所に集中しており、デパートへの出店も臨時の場合以外は一切ない。その中でパティスリー、カフェ、ショコラ、アイスクリーム、コンフィチュール&マカロン、パン、バウムクーヘンなどの工房とショップをまとめあげている。これは商品の製造から販売までをすべての流れでコントロールするために他ならない。
したがって、例えば、モンサンクレールの辻口博啓氏などとは方針が大きく異なる。辻口氏は同じようにパティシエによるビジネス書として『辻口スタイル』を著わしているが、それを読むと多種多様な商品ジャンルを開発しては多店舗展開することを重要な戦略として採用していることがわかる。モンサンクレールはじめ、ル ショコラ ドゥ アッシュ、自由が丘ロール屋、和楽紅屋(和菓子)、マリアージュ ドゥ ファリーヌ、コンフィチュール アッシュ、ポール・バセット、フォルテシモ アッシュ、フェーヴ(豆菓子)といった具合に絶えずブランドを作り出し、店舗を拡張し続けているのだ。天空の辻口茶園という茶園から、ル ミュゼ ドゥ アッシュという美術館すらある。もちろんデパートへの進出も辞さない。
 
本書のサブタイトルは誤解を生みかねない。<冬の繁忙期は、今までの最高で11600本も作らせていただいた。>(p.47)というのだから、常時11600本なのではなく、あくまでも瞬間的な出来事に過ぎない。全体に編集者の手が入っているようで、読みやすい。恐らく取材してライターがまとめたものだろうか。
 
なお、「巻末特別ふろく」として、「エスコヤマ小山進直伝レシピ」3種がついている。ロールケーキのレシピは簡略版で、The Sweet Trick』に載っている。ただし小山ロールも、季節や卵の状態などさまざまな状況で、微妙に配合等を変えているそうなので、レシピ通りが常に正しいわけではなさそうだ。
その点、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌの弓田亨氏のレシピブック(例えば、『弓田亨のフランス菓子』)などでは、混ぜ合わせるにも<10秒間に15回くらいの速さで70回ほど混ぜる>(同書p.39)など、うるさいぐらいに細かいのとは大違い(プロにはレシピ至上主義ではなく「フランス菓子に必要なのは精神性である」と説いているそうだが)。
 
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
小山進『ショコラ・ジャポネ』柴田書店、20121115日、3800円+税
辻口博啓『辻口スタイル』中央公論新社、20133月、1500円+税
小山進『The Sweet Trick:コヤマススムが教えるパティシェの裏技』旭屋出版mook20051月、1500円+税
弓田亨『弓田亨のフランス菓子』日本放送出版協会、20021015日、2500円+税
 
 
◆[エスコヤマ]関連ブックリスト
 
小山進『The Sweet Trick:コヤマススムが教えるパティシェの裏技』旭屋出版mook20051月、1500円+税
小山進『Pâtissier's Café:コヤマススムパティシエが作るカフェレシピ』旭屋出版mook200511月、1500円+税
小山進『Marzipan 20 Stories:「マジパン」お菓子で作る20の物語』旭屋出版、20062月、2800円+税
●小山進『Oven Magic:コヤマススムが教える焼菓子の魔法』旭屋出版mook200612月、1500円+税
小山進『The Sweet Trick Collabo Mind:パティシエコヤマススム流スイーツにおける素材のコラボレーション30』旭屋出版mook200710月、1600円+税
小山進『Beginner's Trick:お菓子作りビギナーズのための入門書』旭屋出版mook20083月、DVD-Video1枚、2500円+税
小山進『Almond Bible:アーモンド菓子の仕事43』旭屋出版mook200810月、3500円+税
【本書】●小山進『丁寧を武器にする:なぜ小山ロールは11600本売れるのか?』祥伝社、20121110日、1500円+税
◎●小山進『ショコラ・ジャポネ』柴田書店、201211153800円+税
村上龍著、テレビ東京報道局編『カンブリア宮殿村上龍×経済人社長の金言2』日本経済新聞出版社、日経ビジネス人文庫、20136月、780円+税

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Author:夢幻庵主人
隠居生活続行中。

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