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『捨てる女』◆捨てることについて

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 内澤旬子『捨てる女』本の雑誌社、20131129日、1600円+税 [注×文×索×]
 
本書は、かつてイラストルポライター、いまは文筆家になっている著者による、過激な「断捨離」を描いたドキュメントである。《本の雑誌》20105月号から20138月号まで、「黒豚革の手帖」と題して連載。
 
かつて<イラストルポライターという、長々しくもカタカナばかりの肩書きを、つい先頃まで名乗っていた。>(p.10)そのため、資料や本、製本ワークショップでの道具、物品で膨れ上がった部屋はカオスのようになっていたが、ある時突然、<いやな感じに襲われ、息苦しくなってしまった。>(p.21)それは、著者が乳癌に罹ってしまったため、カオスが嫌いになってしまったのだ(ちなみに、乳癌に罹ったあと元気が回復していくさまは、『身体のいいなり』に詳しい)。
 
まず最初は、溜め込んでしまった食料品を征伐する。<四月は戸棚や冷蔵庫に巣食う保存食と闘っていた。>(p.24)でも、そのままでは捨てることができず、食べられるものは全部食べようとしてしまう。
食品に続き、家具、靴、衣服、とにかく捨てる。
 
2009年に、千葉県の廃屋を借りて、半年間豚三匹を飼育した(このことは、『飼い喰い:三匹の豚とわたし』に詳しい)。まず、廃屋に残っていた膨大なゴミの山を捨てた。飼育中は豚の糞尿を浄化槽に捨て、<丹精込めて育てた三匹の豚、あっというまに肉になっ>(p.99)た後、豚小屋破壊と廃屋撤収。残ったのは三匹の頭がい骨のみ。ちなみに、その中の一匹の頭がい骨と一緒に著者が写っている写真が、著者自身のブログにある。
そして、究極(?)の捨てる技は、配偶者(河上進氏=南陀楼綾繁)を捨てること。20105、<トークショーで多くの人の面前で「好きなことしてるから儲ける気なし」と言った配偶者にぶち切れた。あたしの不安を何もわかっていない。これ以上怒っても無駄だろうと、夫と彼の大量の荷物の断捨離を決意。>(p.130)詳しくは書かれていないいろいろなことがあったらしく、ようやく<震災から五カ月後に、離婚は成立した。>(p.162
 
さらに震災後には、トイレットペーパーが買い占められたことを怒り、<尻を脅迫する気か!! ならばお前とは、もう縁を切る!!>(p.142)とばかりに、トイレットペーパーを使わない生活を工夫してしまう。このあたりの微に入り細にわたる工夫は著者ならでは。
 
この後も、本を片付け、製本ワークショップの道具や材料を処分してしまう。20年かけて<製本のアイデアの参考のためにと買いためた、革装あり、写本あり、活版印刷あり、和本あり、アーティストブックありの、お宝本>もすべて処分。お宝本はイラスト原画と合わせて、自称<投げ捨て展覧会>をスタジオイワトで開催。題して「内澤旬子のイラストと蒐集本展」。平野甲賀のデザインになるポスターはこちら。昨年開催された「平野甲賀の仕事 1964−2013 展」(武蔵野美術大学 美術館・図書館)にも展示されていた。これは気づいていたらぜひとも行きたかった。
こうして、何もかも捨てまくった著者は、ようやく<捨て暮らしという名の精算事業から卒業>(p.231)したのだが、<捨てるものがなくなってきた途端に、寂しくなってきたのはどういうことか。…もう少し淡々と、寂しい。愛着の持てるものが欲しいと、指先が疼き始めたというか。>(p.235)捨てた反動か、はたまた次なる蒐集を始めるのか。
 
老生も余命を考えると、そろそろ捨てることを考えなければならないか。50年近く無為に集めてきた雑本の数々は、それこそ著者のようなお宝本にすらなりえず、打ち棄てられるのが関の山。されば、残りの人生のために何を残しておくか、そろそろ考える潮時かもしれぬ。
 
あとがきによれば、著者は東京脱出を遂に決意したらしい(p.245)。
 
なお、文中で触れた本は以下の通り。
内澤旬子『身体のいいなり』朝日新聞出版、201012朝日文庫、20138
内澤旬子『飼い喰い:三匹の豚とわたし』岩波書店、20122
 
 
◆[内澤旬子]関連ブックリスト
 
◆著書
◎●『センセイの書斎:イラストルポ「本」のある仕事場』幻戯書房、20065月→河出文庫、20111
『世界屠畜紀行』解放出版社、20071月→角川文庫、20115
●『おやじがき:絶滅危惧種中年男性圖鑑』にんげん出版、2008121日→講談社文庫、20122
●『身体のいいなり』朝日新聞出版、201012月→朝日文庫、20138
●『飼い喰い:三匹の豚とわたし』岩波書店、20122
●『内澤旬子のこの人を見よ』小学館、2013826日 
【本書】●『捨てる女』本の雑誌社、20131129
 
◆共著
〔イラスト・挿絵〕
村中李衣文『カナディアンサマー・KYOKO』理論社、19941月[児童書]
加藤多一文『きこえるきこえる:ぽう神物語』文渓堂、19944月[児童書]
斉藤政喜文『東方見便録:「もの出す人々」から見たアジア』小学館、19985月→文春文庫、20014
村中李衣文『かわむらまさこのあつい日々』理論社、19986
◎●松田哲夫文『印刷に恋して』晶文社 200112
◎●松田哲夫文『「本」に恋して』新潮社 20062
斉藤政喜文『東京見便録』文藝春秋、20093
 
〔文章〕
下川裕治編『アジア路地裏紀行』徳間書店、199910
高野秀行『辺境の旅はゾウにかぎる』(高野との対談を収録)本の雑誌社、20086月→〔改題〕『辺境中毒!』集英社文庫、201110
 
〔文章・イラスト〕
『遊牧民の建築術:ゲルのコスモロジー』INAX出版、INAXブックレット、19939
 
 

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隠居生活続行中。

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