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『骨・岩・星』◆年代の測定方法について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
 クリス・ターニー/古田治訳『骨・岩・星:科学が解き明かす歴史のミステリー』日本評論社、2013910日、2100円+税 [注×文×索×]
 Chris Turney, Bones, Rocks and Stars: The Science of When Things Happened, 2007
 
本書は、過去の出来事の年代をどのように測定するかについて書かれた本である。原著のサブタイトルが本書の内容を端的に示している。
 
全体の構成と触れている年代測定法を示そう。
prologuepp.2-6
1変わり続けるカレンダー  pp.8-17 *暦がどのように変遷してきたか。
2暗黒時代の英雄 pp.18-44 *アーサー王伝説を史実から探る。
3トリノの聖骸布の真贋は pp.46-63 *放射性炭素による年代測定方法。
4ピラミッドとおおぐま・こぐま座 pp.64-86 *ピラミッドの方向付けと建造年代推定。
5ヨーロッパを揺るがした火山 pp.88-109 *サントリニ噴火のテフロクロノロジー(火山灰編年学)と類型学、地球磁場の方向、年輪解析、放射性炭素較正曲線。
6天命 pp.110-124 *年輪年代学。
7氷河の到来 pp.126-145 *氷河期概念の受容と、浮遊性有孔虫の酸素同位体指標。
8失われた世界(大型動物の絶滅) pp.146-167 *メガファウナ(巨大動物)絶滅の年代測定:アミノ酸ラセミ法とルミネセンス法。
9ミッシングリンクをもとめて(ヒトの進化) pp.168-191 *古い人骨の年代測定:アルゴン-カリウム法、アルゴン-アルゴン年代測定法、電子スピン共鳴ESR、核分裂飛跡法(FTD)。
10地上にあいた巨大な穴(恐竜の絶滅) pp.192-207 *イリジウムの存在による隕石衝突での恐竜絶滅説。
11時間の限界にむけて(地球の年齢) pp.208-224 *地球年齢の推定:鉄隕石の利用。
epilogue 時間が足りない pp.2-6
徐々に遡っていくことで、最後の章は遂に地球の年齢を測定する内容となる。
 
各章では、かつてどのように想像されてきたのか、それが科学的な測定方法が開発され、どこまでわかるようになったのかが、その限界含め、明確に描き出している。個々の測定法の解説は精粗があるものの、興味深いテーマの設定とそれらに見合った測定方法の実践という組み合わせで読ませる。
 
実は本書のもう一つの重要な目的は、創造科学批判にある。
<もし教育政策を含む政府施策が宗教教育によってハイジャックされたら、過去の大災害に学ぶチャンスも将来へのチャレンジも、自信を持って対処することができなくなってしまう。>(p.6
<西欧での創造主義に係る権利主張をするグループの人たち>が、<化石の発見とその年代を否定することは、早期における人類の多様性を無視することになる。>(p.227
欧米では聖書を盲信するあまり、原理主義的な誤った信念に憑りつかれている人々が非常に多い。彼らは、世界が6000年前に神によって創られたのであり、進化論は誤りで、恐竜などの化石はノアの大洪水の際に生じたもの、といった奇矯な考えを主張している。狂信的と言えるのだが、とくにアメリカでは幅広く信じられており、州によっては進化論と同等に創造説を教えるべし、としているところすらある。
こうした妄信に警鐘を鳴らすべく、かつての空想的理論に対し、それを正すためにどのような年代測定法が編み出され、適用されて、より長い年代の出来事であるかが明らかになった、ということを読者に認識してもらおうとしているのだ。
 
創造説とは異なるが、トリノの聖骸布をめぐる科学的調査と、それに反対する狂信者の反論は、同類である。
調査した結果、<最新版の放射性炭素較正曲線を用いて、トリノの聖骸布は12751381年の間であると年代測定された。>(p.62
これに対し、キリストの像が布に写ったと信じる者たちは、汚染された試料だとか、修復が施されて新しい布に置き換えられたとか、サンプリング時に差し替えられたとか、布の表面のバクテリアが炭素量を増やして年代を新しくさせた、などと虚しい反論をしたが、どれも批判され退けられた。
さらに、<年代の乖離について、いま最も創造的な解釈は、キリストの復活はユニークな物理事象によるものだ、というものである。>(p.64)つまり、<人体を構成する多数の原子中の中性子がこのイベントの中で放出されてしまい、これらの中性子が聖骸布の中の13C原子によって捕捉されて14Cとなり、聖骸布の放射線が増えることで人為的に若い世代になったのだ>(p.64)という主張である。
<さほど多くの放射性炭素が生成されるとしたら、出てくる年代は現代ということになってしまいかねない。>(p.65
 
原書では巻末に“Further Reading”がついているにもかかわらず、訳書では何の断りもなく省いている。巻末の「謝辞」にも<多くの書籍のお世話になった>(p.238)とある以上、参考文献紹介を省略するのは許せない。また原著には索引もあるが、訳書ではそれも手抜きで索引はない。
http://us.macmillan.com/bonesrocksandstars/ChrisTurney
 
ついでに言えば、本書は杜撰な編集が目につく。例えば、無理に偶数ページ起こしの本文レイアウトにしているため、その前の奇数ページが白となる奇妙な箇所が5か所もある。つまり5ページ分の無駄が生じているのだから、そのページでFurther Reading”を入れるべきだったろう。
訳も校正も杜撰。例えば、<ラファエル以前の画家はとくにアーサー王への執着が強い。>(p.18)おそらくPre-Raphaelite paintersとでも書いてあったのだろうが、これではラファエロ以前に活動していた画家になってしまう。「ラファエル前派」はラファエロ以前の芸術、つまり中世や初期ルネサンスの芸術を範としたグループを言うのだから。
ジェフリー・オブ・モンマスの<『ブリタニア列王伝』は1138年にラテン語で刊行された。>(p.20)とか、<モンマスの初版本は今では手に入らない。入手可能な最も初期のは、1145年に発行された『ブリタニア列王伝』の第二版なので、ティンタンジェル城が初版本に出てくるのかどうかはわからない。>(p.23)などとあるが、当然この時代は印刷本など存在せず、すべて写本でしかない。したがって「刊行」はありえないし、そもそも印刷ではないので「版」となるわけがないので、初版も第二版も無意味でしかない。
2-1の注に<括弧内の年代は…>(p.31)とあるが、括弧はこの表にでてこない!
1年以内の制度で測定できる…>(p.57)は、当然「精度」の誤記。
あまりに多いことから、恐らく編集者は目を通していないのだろう。
 
 
◆[創造説/キリスト教原理主義]関連ブックリスト
 
アービング・ストーン(Irving Stone)/小鷹信光訳『アメリカは有罪だ:アメリカの暗黒と格闘した弁護士ダロウの生涯』上・下、サイマル出版会1973
     *進化論裁判で戦った弁護士クラレンス・ダロウ。
ジェームズ・バー/喜田川信ほか訳『ファンダメンタリズム:その聖書解釈と教理』ヨルダン社、19821月、4200円 (税込)
James Barr, Fundamentalism. 2nd ed
ナイルズ・エルドリッジ/渡辺政隆訳『進化論裁判:モンキー・ビジネス』平河出版社、199112月、2300円 (税込)
Niles Eldredge, The Monkey Business
森孝一『宗教からよむ「アメリカ」』講談社選書メチエ、19963月、1500 (税込)
坪内隆彦『キリスト教原理主義のアメリカ』亜紀書房、19973月、1600
鵜浦裕『進化論を拒む人々:現代カリフォルニアの創造論運動』勁草書房、199811月、2300
蓮見博昭『宗教に揺れるアメリカ:民主政治の背後にあるもの』日本評論社、20022月、2700
大関敏明『アメリカのキリスト教原理主義と政治支援団体』文芸社、200511月、1200
スーザン・ジョージ/森田成也・大屋定晴・中村好孝 訳『アメリカは、キリスト教原理主義・新保守主義に、いかに乗っ取られたのか?』作品社、200810月、2400
Susan George, Hijacking America : How the Religious and Secular Right Changed what Americans Think
 

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隠居生活続行中。

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