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『名医が伝える漢方の知恵』◆二分法について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
丁 宗鐵『名医が伝える漢方の知恵』集英社新書、2013722日、720+税 [注×文×索×]
 
本書は、漢方専門医で日本薬科大学学長を務める著者による。現在、朝日新聞出版のPR誌《一冊の本》に連載されている、著者と南伸坊氏による「テイ先生の診療日」のノリかと思って、読んだ次第。なお、本書も「構成/高木真明・萩原晴一郎」とあるので、明らかに聞き書きによるもの。
 
もしかすると漢方が本当にそうなのかもしれないが、<漢方医学では人の体質をバランスのとれた「中庸」、バランスの偏った「実証」と「虚証」の三つに大きく分けます。この三つの証は体力の充実度、体質や病気に対する抵抗力などを表すものです。>(p.19)とする。<「完璧な中庸」という人はほとんどいません。>(p.22)と断言するからには、基本的に人を「実証」と「虚証」に大別すると考えて間違いないだろう。実際このあとのページではいずれかという観点で述べられている。
 
ちなみに、<実証タイプは体力、気力がみなぎり、病気に対する抵抗力も強い。>(p.19)一方、<実証の対極にある虚証タイプは、体力、気力に乏しく、抵抗力も弱いので病気にもなりやすい。>(p.20
虚証タイプは、マイナスばかりかというと、<実は持久力に優れているので、長期的な仕事に取り組ませればその底力を発揮します。>(p.39
 
大器晩成型の有名人はみな「虚証」タイプだそうである。
たとえば北斎。北斎の号を用いたのは46歳、『北斎漫画』初編刊行が55歳、「富岳三十六景」を描いたのが64歳だったことを理由に、<持粘力のある虚証であり、大器晩成の典型的タイプといえます。>(p.100)北斎以前の時代をご存じないためかもしれないが、20歳で勝川春朗と名乗り役者絵などを描き、21歳のころ既に黄表紙や洒落本の挿絵を多く手掛け、36歳のころには宗理の号で狂歌本・摺物で多く筆をとっていた。北斎は若くして評判を得、しかしそれにあきたらず90歳に至るまで絶えず新しい挑戦を怠っていなかったというべきだ。別に北斎の号を唱えてから始まったわけでもなんでもない。
他の有名人の事例も、人生の後半だけをとりあげているに過ぎず、前半を何も見ていないだけ。
 
そのあと延々と人を二分法で仕分けして、その特徴なるものを説明している。また読者が「実証」と「虚証」のどちらのタイプかを判別する表も設けてある。
しかし、「実証」と「虚証」を区別する表現は非常に曖昧であり、どう突っ込まれても逃れることが可能な分類でしかない。「実証寄りの中庸」とか、最初は「実証」だったが後に「中庸」に傾いた、などと言われれば、どうにでもとれる占い師のご託宣と何も変わらない。トンデモ本と言うべきだろう。
 
二分法の思考方法は、簡便であり、一見わかりやすい。しかし、俗耳に入りやすいだけで、何も語っていないことと同じであるに過ぎない。とりわけ、人を二種類に分けようとする考え方は、ある意味で危険でもある。「友」と「敵」という単純な二分法思考と何ら変わらないのだ。
昔、ある人がこんなことを言っていた。世界には「トマトジュースが嫌いな人」と「そうでない人」しかいない、と。「実証」と「虚証」の二分法もそれと同じでしかない。

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Author:夢幻庵主人
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