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『錯覚の科学:あなたの脳が大ウソをつく』◆錯覚について

某月某日、こんな本を読んだ。
 
クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ/木村博江訳『錯覚の科学:あなたの脳が大ウソをつく』文藝春秋、2011210日、1571円+税[注◎文×索×]
Christopher F. Chabris, Daniel J. Simons, The Invisible Gorilla and other Ways our Intuitions Deceive Us, 2010
 
本書は、視覚上の錯覚ではなく、人が陥りやすい日常的な錯覚6類型を豊富な例示で紹介。目次から見てみよう。
実験1 えひめ丸はなぜ沈没したのか?     注意の錯覚
実験2 捏造された「ヒラリーの戦場体験」   記憶の錯覚
実験3 冤罪証言はこうして作られた      自身の錯覚
実験4 リーマンショックを招いた投資家の誤算 知識の錯覚
実験5 俗説、デマゴーグ、そして陰謀論    原因の錯覚
実験6 自己啓発、サブリミナル効果のウソ   可能性の錯覚
この中で、とくに注意の錯覚、記憶の錯覚と原因の錯覚が興味深い。
 
原題は『見えないゴリラ』。
バスケット試合のフィルムを見せ、パスした回数を数えさせる実験をした。実は映像の中に、ゴリラの着ぐるみを着た学生が選手の間に入り込み、胸を叩いて立ち去る場面が9秒間あった。さて、実験参加者はどのくらいゴリラに気が付いただろうか。なんと半数しか気がつかなかったのだ(対象者を変えてもほぼ半数であることは変わらないという)。
<この見落としは、予期しないものに対する注意力の欠如から起きる。そこで科学的には、「非注意による盲目状態」と呼ばれている。…目に見える世界のある一部や要素に注意を集中させているとき、人は予期しないものに気づきにくい。>(p.18)ちなみにこの実験で、2004年にイグ・ノーベル賞を受賞した。
 
こうした注意の錯覚に気がつかない理由。
<問題は、注意不足を証明する具体的な証拠がないこと。それが錯覚のもとである。私たちは自分自身で気づいた想定外のものは意識するが、見落としたものは意識しない。その結果、私たちが手にしているのは、自分の身の回りのできごとをちゃんと知覚できているという事実だけとなる。>(p.55
<変化の見落とし以上に要注意なのが、自分が見落としを「するわけがない」という、誤った思い込みである。ダニエル・レヴィンはこの誤った思い込みを、「見落としを見落とす見落とし」と冗談めかして呼んだ。>(p.76
 
記憶も不確かだ。
<私たちは自分の記憶を、自分が見たり聞いたりしたことの正確な記録だと思っているが、じつは、その記憶は不正確なのだ。…私たちは自分の記憶を正確であり事実であると思い込むため、実際にあった事実とあとから補足されたものとを記憶の中で区別できない。>(p.85
記憶の錯覚は、体験が強烈なほど誤る。<記憶の錯覚が強くなるのは、自分にとってだいじな情報や体験を記憶する場合である。錯覚を生む決定的な要因は、記憶が呼び起こす体験の強烈さにあるようだ。>(p.104
犯罪の被害者が、犯人の顔を完全に間違えて覚えてしまうこともある。歴史の証言とか、オーラルヒストリーとかいったときの、記憶の危うさが気にかかる。
 
原因についても錯覚する。
<原因の錯覚は、私たちが無作為のものにパターンを読み取り、自分にはそのパターンの生じた原因がわかると思い込んだときに起きやすい。そして直観的に因果関係を信じ込むと、その思い込みと矛盾しないパターンを見ようとしはじめる。>(p.201)こうしたパターン読み取りをする心の働きについては、「パレイドリア(変像)」という名称がつけられている(p.201)。
 
陰謀論はまさにこの原因の錯覚である。
<いわゆる「陰謀論」は、できごとにパターンを見いだすことを基本にしている。陰謀論を前提にすると、できごとが起きた理由がわかりやすいように思える。原則として、陰謀論は結果から原因を推理しようとする。そして陰謀論を信じるほど、あなたは原因の錯覚に落ち込む。>(p.208
<陰謀論は、ゆがんだパターン認識から生まれる。…人びとは相手に対する自分のパターン化した見方を、事件にあてはめた。それに沿って裏にある原因を推理し、自説の正しさに確信をもつあまり、もっと理にかなったべつの説明を見落とした。>(p.208
この指摘は陰謀論にあてはまるばかりではない。イラクが大量破壊兵器を開発していると信じて(?)戦争を起こすことすらあるのだから。
 
原因の錯覚とは因果関係の錯覚でもある。
<二つのものの相関関係に因果関係を見てしまう錯覚は、物語の興味と強く結びついている。…錯覚をうながす第三のからくりは話を聞いたときの私たちの解釈の仕方である。歴史や日常的なできごとを解釈するとき、私たちは前のことが原因で、その後のことが起きたと考えたがる。>(p.213)しかし、因果関係はそう簡単にはわからない。<そのため、一つの結果にはかならず複数の理由や原因があるという事実が、くもらされる。込み入った決断やできごとの原因は、たった一つであるかのように思えてしまう。>(p.219
ビジネス書によくあるのが、<話の前後の流れに都合のいい要素だけを選んで、同じ結果をもたらすべつの要素を無視する傾向だ。>(p.218)かつて一世を風靡した『エクセレント・カンパニー』や『ビジョナリー・カンパニー』など、どの本も、<成功した会社だけをとりあげて、彼らの行動を分析するという誤りを犯している。ほかの会社が同じことをして失敗したかどうかについては、検証していないのだ。>(p.218
ビジネス書を勉強しても、そこで称えられたある要素が成功の要因であるというふうに因果関係の錯覚に陥っていては、結局、失敗するのが落ちだ。そして何が失敗の原因かわからないまま、また、新たな話題のビジネス書に手を出してしまう。
 
残りの三つの錯覚についても簡単に説明しておく。
自信の錯覚は、<自信ありげな態度を、相手の知識や能力のあらわれとして反射的に受け入れてしまう>(訳者あとがき)錯覚である。
また、知識の錯覚は、<自分の知識の限界を自覚せず、見慣れたものについては十分知識をもっていると>(同)思ってしまう錯覚である。
可能性の錯覚は、<まだ開発されていない認知能力の大きな貯蔵庫が、脳の中に眠っているという思い込みである。>(p.237)これなどしばしば聞く話ではないだろうか。とくに自己啓発やオカルト系の言説では、まだ眠っている能力を引き出すなどとして、使われる。
 
本書は、文献を記した注は詳細でよいのだが、邦訳のある本については不親切。
 
 
◆[錯覚・空耳]関連ブックリスト
*本書は、視覚上の錯覚を扱ってはいないので、下記のブックリストはやや不適切か。
 
●北岡明佳『だまされる視覚:錯視の楽しみ方』化学同人、DOJIN選書、20071月、1400
日本臨床心理学会編『幻聴の世界:ヒアリング・ヴォイシズ』中央法規出版201010月、1400
【本書】●クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ/木村博江訳『錯覚の科学:あなたの脳が大ウソをつく』文藝春秋、2011210日、1571円+税  [注◎文×索×]
Christopher F. Chabris, Daniel J. Simons, The Invisible Gorilla and other Ways our Intuitions Deceive Us, 2010
柏野牧夫『空耳の科学:だまされる耳、聞き分ける脳』ヤマハミュージックメディア、20122月、1600
スティーヴン・L. マクニック、スサナ・マルティネス=コンデ、サンドラ・ブレイクスリー/鍛原多惠子訳『脳はすすんでだまされたがる:マジックが解き明かす錯覚の不思議』角川書店、20123月、2000
Stephen L. Macknik, Susana Martinez-Conde, Sandra Blakeslee, Sleights of Mind
レイ・ハーバート/渡会圭子訳『思い違いの法則:じぶんの脳にだまされない20の法則』合同出版、20124月、1900
Wray Herbert, On Second Thought
 

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Author:夢幻庵主人
隠居生活続行中。

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